届く。




「一体どうなっているっ!?」

紫倉は鈍い動きながらも重量感のある攻撃を仕掛けてくる相手に、レイピアを振るった。

しかし、細身の刃はカツンッと虚しい音を響かせるばかり。

先ほどから防戦一方だ。

「ゴーレムだな。術で作られた無生命体だ」

対する雪は、軽やかな足取りで石人形の拳をかわしている。

狭い通路を歩いていたら、壁に埋まっていた二体の石像が、突如として動きだしたのだ。

スペースもない場所では満足に動くことも出来ず、ギリギリで攻撃を避けるのが精々。

紫倉のレイピアも効かないばかりか、術師が何かをする気配もまるでないのだ。

「貴様っ、術師だろうっ!?」
「……」
「聞いてい……」

無言を貫く相手に怒鳴ろうとした女は、しかし何かが引っかかると言葉を途切れさせた。

確か、この無愛想な術師はゴーレムと言わなかっただろうか。

優秀な海馬が何かを告げる。

深く考える間もなく、紫倉は過去の記憶を引っ張りだした。

「そうか、媒体」

サファイアの瞳で鋭くゴーレムを観察すると、それはすぐに見つかった。

天井まで届く敵の頭。

その右後ろに一枚の紙切れが貼り付けられている。

長い時を経たものなのか薄茶けてはいるも、原型はしっかり留めていた。

頭上から落とされた拳を避け、それに身軽な動きで飛び乗ると、ゴーレムの肩まで一機に駆け上る。

危機を察したのか、暴れる石の上で上手くバランスを取りながら、紫倉は必殺の一撃を見舞った。

紙の中心を突き破る切っ先。

芸術とも言える流麗な動きに屈したように、ゴーレムの動きがピタリと止まる。

数秒の停止の後、人形はガラガラと音を立てて崩壊した。

コツンッと軽いヒールの音を立てながら、今度は上手く着地をして見せた彼女に、雪はもう一体のゴーレムと対峙しながらも、金色の双眸を向けた。

「気付いたのか」
「舐めるな。貴様の方こそ、手助けが必要か?」

得意げに赤い唇から嫌味を吐き出すが、内心では雪が未だにゴーレムの相手をしていることに首を傾げていた。

士官学校を主席で卒業した紫倉は、過去に習った術学を思いだしたのだ。

術師によって創られる『ゴーレム』と言う無生命体は、元が土であれ岩石であれ、動かすための媒体が必要となる。

術札に力を込め、それを元に形作るのだ。

原動力となる札さえどうにかすれば、勝負はつく。

にもかかわらず、すぐにゴーレムと見破った術師が、戦いを長引かせている理由が分からない。




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