歴然とした腕力の差と、絶妙に乗せられた体重に、腕がビリビリと痺れを訴える。

けれど、ここで力を抜けばどうなるかなど明らかだった。

「なんでそっちを使わない?」
「……黙れ」
「まぁ、いいけどな。使わざるを得ない状況にしてやるよっ」

途端、受け止めていたのとは逆の刃が下方から返された。

「っ……!」

前髪を掠めた神速の光に、接近戦を回避しようと飛び退る。

だが、それを許すほど男も甘くはなかった。

長い足で衣織を追い懐に踏み込みながら、横一線の薙ぎ払い。

花嫁衣裳の白が無残にも引き裂かれる。

舌を打つ暇すら与えずランスを軸にすると、碧はブーツの先を少年の脇腹に叩き込んだ。

「かはっ……!!」

威力のある攻撃に華奢な体は吹き飛ばされ、狭い通路の壁に叩き付けられる。

不味い。

碧の実力は本物だ。

今まで対峙して来た敵の中で、これほどまでの相手はいただろうか。

碧の余裕の声がかかったのは、握り締めた柄に目を落としたときだった。

「使えよ」

少し離れた位置で、息一つ乱さず悠然と佇む男を、黒曜石の双眸が射抜く。

それを肩で受け流すと、碧はもう一度。

「使え。『紅の戦神』と殺り合ってみてぇんだよ」

正気のこそげ落ちたエメラルドに、愉快そうな色を携えて。

眼前にいるのは、本物の戦闘狂だ。

けれど、どうしたって使えるはずがない。

自分がどうなるかなど、カシュラーンで立証済みなのだ。

「……嫌だ」

頼りない反論に、碧の唇が残忍な笑みを刻んだ。

「なら、死ぬか?」




- 179 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -