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「っぃ!!」
「ここか」
電撃が走ったような痛みに汗を浮かべる女に構わず、彼はそっと患部に掌を翳した。
「一ひらに集え」
淡く輝く彼の右手。
瞬間、僅かだが身内を焦がす感覚が退いて行く。
「どういう、つもりだっ?」
「足手纏いは邪魔だ」
「ならば捨てて行けばいいだろう!!私を愚弄するつもりかっ!?」
術師が何をやっているかなど、嫌でも分かった。
敵の前で弱った一面を見せただけでも屈辱なのに、その上情けをかけられるなど、有り得ない。
殺気すら見える双眸で、正面の男を睨み据える。
自分はこんなにも強い憤りを感じているというのに、対する雪の無表情は、尚更紫倉の怒りを煽った。
いつの間にか足首の痛みは嘘のように消え去っていた。
治癒が終わると、何事もなかったかのように雪は立ち上がり、感情のない眼で紫倉を見下ろす。
「貸しにしたつもりもない。愚弄と取るのは構わないが、さっさと立て」
「っ!!」
己の碧眼が紅のものに変わってしまうかと思うほど、強い羞恥が彼女の罵倒を喉奥に止めさせた。
それを面白くもなさそうに一瞥すると、雪は今度こそ背を向けて歩き出した。
正直なところ、紫倉にどう思われようが大した影響はなかった。
一時的に共同戦線を張ったまでで、地上に戻ればまた敵になる相手。
イルビナ軍に己の力を貸すつもりなどさらさらない雪にとっては、離れてしまった黒髪の少年の方が、比べ物にならないほど気がかりだった。
「脱出した瞬間が、貴様の最期だっ」
無関心な白銀に吐き捨てると、紫倉は力強い歩みで足を動かしたのだった。
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