SIDE:雪&紫倉

「……」
「……」

狭い通路に浮かび上がった二つの影は、美貌の男女。

他を隔絶した完璧な容姿の男と、品よく整った面立ちの金髪の女。

世界中の芸術家がこぞってモデルを頼みそうな、絵になる二人だったが、間に流れる空気は極寒のそれを思わせる。

彼らの発する冷気に当てられたかのように、蜥蜴が一匹、瓦礫の隙間へと逃げ込んだ。

二人一緒に同じ空間に落ちたのだと理解したときの、互いの心境は非常によく似ていた。


『最低』


この一言に尽きる。

運がないどころの話しではない。

地上で立っていた位置からすれば、当然の結果なのだが。

だからと言って納得したくはないのが、内心である。

一触即発。

ともすれば今にも戦闘開始のゴングが鳴りそうだ。

けれど、時が過ぎるにつれて落ち着きを見せる頭では、それも出来なかった。

今ここで殺し合いを始めでもしたら、地震によって半壊した神殿に止めをさしかねないし、現在地すら分からない状況では、無駄な体力を使いたくない。

別れて出口を探すよりも、何が起こるか知れない場所では不本意だろうと戦力は欲しい。

冷静な判断が出来る程度には、二人とも現実的であった。

「休戦だ……行くぞ」

投げられた台詞は乱暴で、紫倉の高いプライドがピクリと鎌首をもたげる。

清凛家はイルビナ四大貴族の一角。

その息女として生まれた彼女にとって、『華真族』などという出自の怪しい男に命令されるのは我慢ならない。

咄嗟に文句を言おうとした唇は、しかし変わりに小さな悲鳴を上げた。

「っ!」

左足首に走った激痛。

思わずその場に蹲り、必死に声を殺した。

折れてはいないだろうが、捻挫でもないだろう。

着地の際にヒールではやはり無理があったのだ。

こんな時でも、か弱い淑女のような反応はしたくなかった。

優美な曲線を描く眉を寄せ、短く息を吐き出す。

紫倉の様子に事態を察した術師は、呆れたような表情を作ると、彼女の足元に膝を着いた。

「何をっ……!?」

一言の断りもなくブーツを脱がされ、驚愕に目を見開く。

零れ落ちそうなサファイアを黙殺し、雪はグッと彼女の足首を押した。




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