一時休戦。




「――ぃ……おいっ」

ぺちぺちと頬を叩かれる軽い衝撃に、うっすらと黒曜石を覗かせた少年は、途端覚醒した意識に勢いよく身を起こした。

「ここ、どこだ?」

薄暗い闇は日が暮れたのではなく、現在地が屋内によるものだった。

すぐに慣れた二つの目をキョロキョロと動かせば、飛び込んでくるのは瓦礫の山と一本道の狭い通路。

そして、緑の頭。

緑の頭?

「っては?な、なんであんたがここにっ……つーか、雪はっ!?」
「はぐれたみたいだな。俺らは二人してここに落とされたみたいだが、他の奴らは知らねぇ」

冷静な回答をしながら、碧は自分たちが落ちて来たらしい天井の穴を見上げた。

遥か上方に申し訳程度の明かりが見えることから、かなりの距離を落下したことが分かる。

にも関わらず、立ち上がった衣織は、己がどこにも怪我を負っていないことに首を傾げた。

「二回目だ」
「は?」

その様子にニヤリと笑みを作ると、碧がVサインを突きつけて来た。

眼前に出された二本指が意図するところは、一体なんだ。

取り合えず拳を出してみる。

グーだ。

「違ぇよ、馬鹿。お前落下途中で意識飛ばしただろ?俺が抱えて着地してやったんだよ」
「うわっ、助けられたのが二回目ってこと?」

心底嫌そうに顔を顰める少年に、男は喉を鳴らした。

憤慨するどころか、楽しそうに笑う相手に戸惑ってしまう。

どういうつもりで自分を助けたりしたのだろうか。

先ほどのことにしても、この男の言動はどうにも解せなかった。

難解な謎に頭を捻っていると、正面でオレンジの光が一瞬灯った。

「火澄連れてくりゃよかったな、携帯出来ないのが不便だ」

ぶつぶつと独り言を言う碧から漂って来た煙草の香り。

こんな時に一服とは、何とも神経の太い男だ。

気を張っても仕方ないと、衣織は諦めにも似た心境で苦笑した。

「なぁ」
「あ?」
「俺ら敵だけどさ、取り合えず一時休戦ってことにして、ここ出ねぇ?」

恐らくは神殿の地下なのだろう。

ならば何処かに出口があるはず。

右も左も分からぬ今、いがみ合っても仕方ない。

「言ったろ?俺はお前が気に入った。こんなとこさっさと出るぞ」

満足そうに微笑みながら、拳がすっと差し出される。

衣織もまたニヤリと不敵に笑うと、自分の拳をコツンっと碧のものにぶつけたのだった。




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