たゆたう意識。
夢を見ていた。
懐かしくも忌まわしい、夢を。
もうあれからどれ位の月日が流れただろうか。
蘇るビジョンはいつまでも鮮明で、消えることのない咎なのだと知らしめる。
怒号。
破裂音。
不快な感触。
飛び散った温もり。
キリキリと鋭い痛みを訴える神経は、最早限界で。
けれど止まり方も知らなくて。
毎夜襲う亡霊の嘆きに、更に加速せざるを得なかった。
そんな頃与えられた、一丁の銃。
シルバーに輝く銃身を手の内に納めると、不思議と迫る焦燥が緩和された。
残らないから。
引き金を絞るだけ。
未来を奪った感覚が、残らないから。
引き金を絞るだけ。
あの場所では不便極まりなかったけれど。
引き金を絞るだけ。
根本的には何も変わっていないと知っていながら、それでも衣織は平穏を手に入れたのだ。
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