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「衣織っ!?」
「っ……!」
術師の切迫した声に、どうにか悲鳴を堪える。
激痛の中、衣織の脳内に警鐘が鳴り響いていた。
いつだ。
正面からの一撃を銃身で受け止め、すぐさま攻撃に転じたはずだ。
いつ、背後を取られた?
「クソっ」
素早く体勢を立て直した少年は、悠然と構える襲撃者を睨み付けた。
見上げる長身、深緑の短髪と整った顔立ち。
猛禽類のような鋭い双眸はエメラルド。
両端に刃の付いた細身のランスを手に、均整の取れた鍛えられた体躯を紅に包んだ男が、そこには居た。
「イルビナ軍……」
着崩された軍服は、西の軍事大国のものに相違なかった。
ダブリア、ネイドに続きここでも遭遇するなんて、とことん運が悪い。
いや、違う。
自分たちはレベル3を撃破しているのだ。
あの雪国で。
加えてネイドでのことも報告されているはず。
だとしたら、今回の接触は。
「俺らを、潰しに来たのか」
舌打ちと共に吐き捨てる。
けれど、返されたのは予想外のものであった。
「違ぇよ」
言いながら、ランスの刃が雷鳴の如きスピードで振り下ろされる。
空気を切り裂く斬撃を寸での所でかわしながらも、少年は口を動かし続けた。
「じゃあ、一体なんでっ?」
「それは……」
「一ひらに集えっ」
会話を遮断するような雪の声が響き、衣織が反射的にその場を飛び退いた直後、男の足元から悪魔の手さながら、渦を作った火柱が上がった。
真っ赤に燃え盛る炎が、イルビナの紅を焼き消そうと牙を剥く。
これでは骨すらも残らないのではないか。
「おい、雪やり過……え?」
凄惨な光景に術師を窘めようと発した台詞は、驚愕へと変化した。
闇色の瞳が限界まで見開かれる。
「血の気多いな、人の話くらいしっかり聞けよ」
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