己だって、まだ上手く消化することの出来ない母親の死。

悲哀に暮れる父親を見ていると、それが嫌でも突きつけられる。

目を逸らしていたかった。

王妃が居なくなったことから、目を背けていたかった。

「あんたは自己保身のために、逃げたんだ」

無意識に目を逸らしていた自身の醜さが、目の前の楼蘭によって暴かれた。

初めは、変わってしまった父親に戸惑い、何度も注意をした。

今のままではいけないと。

臣下も離れてしまうと。

しかし、何度言ってもきかない国王に焦れて、自分で政務を執り行うようになった。

次第に家臣は自分に従い始め、国王など名ばかり。

周囲から人がいなくなろうと、父の享楽は止まることもなく、もう説得する気すら失せていた。

王妃の死に囚われ足掻く国王は醜く、どうして裏切るような真似が出来るのか嫌悪した。

けれど違った。

本当は、娯楽に走る国王に怒りを向けることで、どうにか自分を保っていただけだ。

自分は彼とは違う。

きちんと前に進んでいる。

母の死を乗り越えきちんと立っている。


それなのに、国王ときたら。

最低のラインとして父親を見て、自分はもう完璧に立ち直ったのだと誤魔化した。

「あんたが本当に平気だったなら、家族として親父支えてやらなきゃいけなかったんだよ」
「私は……」
「あんただって本当は、全然平気じゃないんだろ?」

瞬間、王子の瞳が大きく見開かれた。

輝く紫水晶に映る、偽りの怒りが晴れて行く。

一度自覚した罪悪感が心を満たした。

自分は、なんと卑怯だったのだろう。

口では父の行いを嫌悪し、その実彼が間違った方向に進んでくれていることを願っていたなんて。

父が進む道を逸れれば逸れるほど、己は正しい道に立っていると信じることが叶ったのだ。

自分を取り繕うために、国王を利用していたに過ぎない。

「私は、醜いな……」

自嘲気味に落とされた呟きに、衣織は苦笑を零す。

「醜くなんかねーよ。それに、まだやり直しは出来る」
「しかし」
「仕方ないだろ、やっちまったもんはやっちまったんだ。もう気にすんな。取り合えずさ、自分の痛みから逃げないで、親父と話してみろよ」

いっそのこと一緒に悲しみに暮れてみればいいと、少年は言う。

「あんただったら、とことんヘコんでも今度はちゃんと、立ち直れるだろ?」




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