後ろに目をやると、優しい紫紺の瞳とぶつかった。

すっきりと整った顔立ちの男が、そこには立っていた。

国王と揃いの紫の髪から、彼が誰なのかを見当づける。

東国シンラの王子―――和泉=千樹。

事前に楼蘭から得ていた情報と照らし合わせ、確信した。

和泉は安心させるように衣織へと微笑んでから、一変して厳しい表情を王座に投げた。

「彼女は私の婚約者です。どういうおつもりかは存じませんが、今後一切彼女に触れないで下さい」
「約束は出来ぬな」
「何をっ」
「お前とて分かっているであろう?」

どこか余裕を漂わせる国王に、肩にかかった手が僅かに力を強める。

衣織には国王の言い分はさっぱり理解出来ない。

どこの世界に、息子の嫁に手を出しておきながら正当性を主張する人間に、納得し得る者がいるというのか。

全身を撫でられた気色悪さも手伝って、今度は隠すことなく眉を顰める。

「……だとしても、彼女に触れることを許可するわけにはいきません」

諦めた声色に、衣織は驚いた。

まるで言っても仕方がないと、理解させるのを放棄したような口調であったのだ。

和泉のアメジストの瞳には、落胆と拒絶がありありと浮かんでいる。

「行きましょう。ここに居ても無意味ですから」
「え?」

そっと退室を促され戸惑う少年の手を引きながら、王子は王座を振り返ることなく扉へと向かう。

「和泉っ」

扉に手をかけたところで、国王の声が謁見の間に響いた。

悲痛な叫びを感じ取ってしまった衣織は、思わず背後を振り返る。

けれど、呼びかけられた当人は父親の存在を意に介することもなく、掴んだ花嫁の手を引き寄せた。

「貴方の顔など見たくもない」

閉まり行く扉の隙間から目にした国王の姿が、衣織の頭から何故か離れることはなかった。




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