幕開けの白銀。




――お前の命を捧げろ

男の放った言葉に、衣織の頭はこの雪山のように純白に染まった。

何を言っているのか、分からない。

掴まれた両手首はピクリとも動かず、ただ黄金の宝石を見つめるだけだ。

「金はいらない。お前の命をもって償え」
「な、に言って…」

尚も繰り返す彼に、衣織は喘ぐように言葉を漏らす。

強風にのって白い粒が二人の身を叩く。

頬についたそれを払いたいのに、一向に拘束を緩めない男のせいで叶わない。

不味い。

この感覚は、良くない。

本能が告げていた。

体中を駆け巡るのは、警鐘と呼ぶにはあまりに小さな響き。

まるで金縛りにでもあったかのように動きを止めた衣織に、男は何事かを言おうと口を開いた。

まさにその時。

「居たぞっっ!!」
「おいっ、こっちだっ!!囲めっっ!!」

耳障りな怒号に、我に返った。

手首を返して呪縛から逃れるように、彼から飛び退る。

「アンタ、冗談キツイよ。命はたった一つなんだからさっ」
「冗談では無い。命は一つだと言うが、アレも唯一つのものだったんだ」

僅か1メートルほどの距離で、お互い向き合ったまま。

こんなくだらない冗談に付き合っている場合では無いのに。

数を増やし少しずつ視界の端を満たす群れに、衣織は苦い笑いを零した。

囲まれている。

気づいているだろうに、白銀の男は周囲を一瞥しただけで、特に動揺している風にも見えなかった。

「……なぁ」
「なんだ?」

手にしたままの銃の装弾を確認しながら呼びかける。

「アンタ、強い?」
「自分の身を守る程度ならな」
「そっか……。うん、じゃあさ。俺の命どうのこうのって話は一先ず置いといて、今はこの状況を何とかしねぇ?」

惚けたように見つめていた時とは違い、はっきりとした光を携えて、男を見つめた。

「俺たち2人して死んだら、アンタに俺の命あげることも出来なくなっちゃうだろ?」
「なんだ。くれるのか?」
「……仮に、ってことで」

彼の言葉に苦笑が酷くなる。

「おいっ!仲間もいるぞっ」
「まとめて殺っちまえっ!!」

山賊の集団は2人を完全に包囲し、各々物騒な獲物を手に今にも襲いかかろうとしている。

熊のような屈強な男たちの言葉に、対照的な白銀の男は怪訝な顔つきになった。




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