楚々とした純白の花嫁衣裳に身を包むは、神秘的な麗人。

少年らしい華奢な肩を惜しげもなく晒し、鎖骨の覗く胸元には花を模した金の首飾りが絢爛な雰囲気を醸し出す。

腰の位置できゅっと絞られたデザインは、彼の細いそれを一層魅惑的に演出し、足下まで延びる裾は軽やかで涼しげ。

加えて、恐らくは紛い物であろうが、流れるような青の髪が爽やかな落ち着きを与えていた。

花の透かしが入った初雪のような布地は、虹色の光沢を帯び、またその白さに負けぬ彼の肌は目に眩しい。

金色の眼には他の一切が排除され、映るのは優美な花嫁のみ。

唯一の不満は真珠をあしらったマリアベールを被っているせいで、彼の顔はあまりはっきりしないことだ。

蘇次が未だ放心を続ける中、雪はゆっくりとした動作で立ち上がると、衣織の正面まで足を進めた。

「衣織」

俯き加減の顔は、自身の格好を恥ずかしく思っているのだろうか。

そんな純真な反応に小さく微笑を漏らしながら、そっとベールに手をかけると、雪は少年の白磁の面を露にした。

「あ……」

驚いたような小さな声。

薔薇色の頬に手を添えて顔を上げさせれば、急にクリアになった視界に僅かに戸惑った様子の、大きな黒曜石がこちらを見やった。

うっすらと化粧の施された少年の顔は麗しく、紅に飾られた唇がひどく艶かしい。

僅かに残る成長過程特有の幼さと、咲き誇るような蠱惑的な魅力。

それはこの上なく危うい色香。

洗練で清らかな澄んだ輝きと、今にも決壊してしまいそうな不安定な妖艶。

雪の背筋を何かが走り抜けた。

「綺麗だ」という賞賛は、しかし術師の口から零れることはなかった。

ふいと逸らされた黒曜石の眼。

まるで雪と視線を交わしたくないかのような、逃げる少年の眼差しに、喉元までせり上がった賞賛の言葉は行き場を失くした。

「離せ」
「衣織?」

鼓膜を打った拒絶の単語に、眉が寄る。

思わずといった台詞を落とした衣織は、はっと我に返り取り繕うように苦笑を作った。

「悪ぃ。ほら、恥ずいだろ?だから、な」

ぎこちない動作で身を引くと、少年は雪の腕から飛び立った。

術師に残されたのは、明確な違和感と喪失感。

「衣……」
「族長さん、俺はいつ城に行けばいいんだ?」

呼び掛けを遮ると、衣織はぼんやりとしたままの蘇次に声をかけた。

それがより、雪の疑念を強くする。

はっと現実に戻った族長は数回の瞬きの後、コホンと咳払いを一つ。

「し、城はもうしばらくすると使いの者がやって来ると思います」
「そっか、じゃあ最終の打ち合わせをしとこう。俺がこんだけしたんだから、失敗なんてされたくないしな」

ニヤリと笑った花嫁の横顔は、誰が見ても平生の衣織のはずで。

しかし、唯1人。

白銀の華真族だけは、微かに瞳を眇めてそれを見つめていたのだった。




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