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何言ってんだよ。
やはり口は動かなかった。
注がれる視線に、何とか黒曜石を合わせることが精一杯だ。
その眼前で、雪の瞳が眇められる。
ひどく、寂しげに。
トクンっ。
「お前は、嫌ではないのかっ……?」
駄目だ。
与えられる情報を、脳が処理しきれていない。
だってまだ。
自分は何も気付いていないから。
何に、気付いていない?
「あーっっ!!」
叫びと共に、衣織は術師の体を蹴り飛ばした。
予想外の攻撃に、雪の体がベッドから落とされる。
「俺が知るかっ!!俺だって分かんねぇんだよっ!!このクソ術師っ!!」
呆気にとられる相手にそう怒鳴り散らすと、衣織は壊れてしまいそうな心臓を抱えて、バスルームに逃げ込んだのだった。
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