「あ……」

その金に射止められ、呼吸すら上手く出来ない。

動きを止めた衣織に、彼はゆっくりと近づいて来た。

なんとか震える足を無理やり地面から剥がすと、男が一歩進むたびに衣織も一歩後退った。

「あ、あの水晶アンタのだったのか?悪かった。いや〜案外モロイんだなっ」
「銃は駄目だ」
「そ、そか。本当マジでごめんっ。アレ、やっぱ高いのか?払える額なら賠償金として払うからっ」
「いや、いい」

男が歩みを止めないせいで、衣織も後退を止められない。

ただ、まるで現実感の無かった彼が言葉を発したことに、少し安心していた。

金色の輝きは衣織から視線を外さず、浮かべた真剣に圧倒されたままではあったけれど。

「金はいらない。そんなもので価値を計れるものでは無いんだ」
「そ、そうなんだ?」
「あぁ。だから…」

男は一歩で衣織との距離を詰めると、その両手首を掴み自身に引き寄せた。

間近に見える絶対の輝きに、黒曜石の眼を驚愕の色で飾る。

男の低音が、衣織の耳朶に響き身を震わせた。

「お前の命を捧げろ」

雪の悪魔の哄笑が、耳の奥に響いた。




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