アッサリと言ってのける若者に、面食らった。

淡々と述べる彼らには決して驕った様子も見られず、それが逆に彼らの実力を裏付けているように思える。

だからと言って前途ある二人を、何より『廻る者』である雪を危険な目に合わせるわけにはいかないのだ。

「た、例えそうだとしても城は厳重に警備されており、楼蘭ですらないお二人が敷地に入り込めば、すぐに捕らわれてしまいますっ!!」
「あー、それは嫌だわ」

トラップ程度ならばどうとでもなるが、さすがに城を守る訓練された兵士たちとの戦闘は御免である。

どうしたものかとソファに深く身を預けた時、それまで静かに傍観していた女が口を開いた。

「私が……」
「え?」

小さな声にそちらを見やると、香煉は床に視線を彷徨わせた後、覚悟を決めたように顔を上げた。

「私が王子に嫁げば、時間を稼ぐことが出来ます」

その申し出に、衣織は目を見開いた。

「香煉っ!!お前、何を……」
「花嫁を迎える際には盛大な婚姻式が行われ、城中の意識はそちらに向かいます。警備が手薄になった隙に、華真様をご案内することは可能ですっ」

父の動揺を遮ると、彼女は一息で言い切った。

その青い双眸は真っ直ぐに美貌の術師に注がれている。

「その後はどうするというのだっ!?婚姻を取り消すなど、王家が許すはずもないっ。それともお前は、一族の仕来たりを無視するというのか?」
「ですが!我ら楼蘭の使命は華真様を花突にご案内すること、それを果たさずしてどうすると言うのですっ」
「香煉っ!!」

どれほど蘇次が声を荒げようと、まるで縋るように必死な眼差しで雪を見つめる女は揺るがなかった。

香煉の申し出はありがたい。

彼女の提案に乗れば、恐らく花突へ入り込むことは出来るだろう。

けれど、何故だろうか。

白銀の男だけを視界に入れ続ける彼女を見た瞬間、体中に駆け巡る不快感。

ザラリとした感触で内壁を擦られたような。

妙に苛立ちを煽る、尖った感情で身の内が満たされる。

香煉が一族の務めをまっとうすべきと叫ぶたび、本音はそこにはないのだろうと、問いただしたくなるなんて、どうかしているとしか言いようがない。

愕然とした思いで細い喉を押さえる衣織を、雪が不審そうに窺う。

「どうした?」
「なん、でもない。悪りぃ」

協力を申し出た相手に不満を持つだなんて、何を考えているのだか。

意味の分からない心の変化に戸惑い、自己嫌悪に陥りかけた少年を掬いあげたのは、頭に置かれた雪の手だった。




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