使命。




神殿から続く舘は同じ白い石造りではあったが、こちらはきちんと手入れが行き届き、質素ながら調度品も置かれていた。

応接室に通され香煉にしばし待つように言われてから、ほんの数分後。

雪は現れた男の態度に、先ほどと同じような不機嫌をまぶした声で応じた。

「楼蘭族が長、蘇次と申します。まさか当代で『廻る者』にお会い出来ようとは……」
「挨拶はいい。『花突』への案内を頼みたい」

蘇次と名乗った中年の男は、言葉を遮られても気分を害した様子もなく、むしろ焦ったように身じろぎした。

「どうした?」
「い、いえ、それが」

青の短髪に白いものが混じり始めた蘇次は、どうしたものかと理知的な瞳を彷徨わせる。

「華真様の命とあらばすぐにでもご案内したいのですが、しかし……」
「なんだ?」

言葉を濁す男に、雪の表情が険しくなる。

はっきり言えと促すと、蘇次は言いにくそうに口を開いた。

「現在、『花突』へご案内することは不可能なのです」

雪と並んでソファに腰かけた衣織には、話の半分も理解出来ず、ただ彼らの会話に耳を傾けるだけだ。

族長の台詞に術師は眼差しを厳しくした。

「詳しい説明を」

高圧的な要求に文句一つなく、蘇次は硬い声色で話始めた。

「シンラの『花突』への道は、我ら楼蘭族の隠れ里から行く道と、もう一つ。王城からの道があります。しかし、先日襲った地震により通路の入口が崩れ、この里から通じる道が閉ざされてしまったのです」
「地震……」

衣織の脳裏に、カシュラーンで見舞われた地震が思い出される。

同時に術師に抱きしめられたことまで蘇りそうになり、慌てて思考を現在へと引き戻した。

「ならば、もう一方の道を使えばいいだろう」

雪の言葉は最もだ。

しかし、蘇次は険しい顔つきのまま首を横に振った。

「それが、出来ないのです」
「理由は?」
「……」

言い淀む族長に、苛立たしさが込み上げる。

何を迷うか。

怜悧な金の光が彼を射抜いた。

「言え」

不自然なほど肩を震わせると、蘇次は訥々と続きを話し出した。

「その……大変申し上げにくいことなのですが、我が一族と王族との関係は、今あまり良くない状況なのです。よって、彼らの敷地に我々が華真様をご案内することは、出来ません」

楼蘭の一族は『花突』を守護する者。

それは古の頃より課せられた責務。




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