楼蘭の隠れ里。




東国シンラは、謎に包まれた国であった。

王族が国を治め、希少な術師が多数所属している。

対外的に知られているのはこの程度で、情報屋の衣織にも引っかかるネタはない。

そもそも、これほど内情が外界に流れていないのは、シンラがあまりに閉鎖的な国のせいだ。

北・西の両軍事大国にすら門を開かず、パイプはネイド商人との貿易のみ。

南国を介して世界中に出回った術札のために、シンラの神秘性は濃密になり、やれ術研究が盛んだ、精霊が擬人化しているだなどと、真のようなものから冗談でしかないものまで噂だけが一人歩きをしていた。

けれど、実際に自分が足を踏み入れてみれば、街並みこそ幻想的ではあるが大して他国と異なっているわけでもなかった。

軒を連ねる店にも、特別変わったものはない。

精霊石を扱うところが少しばかり多かったくらいだ。

「なんで街から離れるわけ?」

右隣を歩く術師をチラリとミヤル少年の顔は、些か不満げ。

他国と差がないと言っても、やはりあの街の景観は心躍るものがある。

それなのに雪の目的地には、王都の城門を抜け街道を脇にそれて半刻経っても到着しない。

「俺、もう少し街見たかったんだけど?」
「残念だったな」
「……喧嘩売ってんのか?そうだろ?」

横目で睨んでも、術師はまるで平然としている。

何のダメージも与えられていないと悟り、むっと唇を尖らせた時、雪が突如歩みを止めた。

「なに?」
「着いた」
「は?」

生い茂る木々を前にして、衣織は首を傾げた。

正面に広がるはただの森。

こんな場所にどんな用があるというのだろうか。

一歩を踏み出した雪の足が、爪先から消えていったのは次の瞬間である。

「はっ!?えっ!?なんだっ」

男の長い右足が消え、胴体、下半身、頭部に差し掛かったところで、衣織は慌てて彼のマントを引っ張った。

「ちょっ、待てっ!」
「っ……」

力一杯引かれたせいで呼吸が詰まった雪が、ギロリと鋭い瞳で少年を見下ろすも、困惑する彼にはまるで効果はない。

後退したためか雪の体は元のように完璧なものだったけれど、衣織の目に映った奇怪な現象の謎はさっぱりだ。

「あ、あんた今、身体消えたっ!?」

黒曜石の瞳を見開いて掴みかかる姿に、雪は険しい面をふっと緩めた。

そんな必死にならなくても。

焦る姿に、少しの悪戯心が芽生えてしまう。




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