□
「えっ!?」
銃で攻撃された黒水晶は被弾した瞬間、粉々に砕け散ったのだ。
キラキラと空中に舞う黒い欠片たちに、言葉を失った。
ダガーでは傷すらつけられなかった硬度を誇る水晶が、見る影も無く宙を泳いでいる。
「な、んで……」
凶器を手にした右手をダラリと下ろし唖然としていた衣織は、突然蘇った吹雪に驚いた。
「は?ちょっ!なにっ?」
なにっ?では無い。
これが正しいのだ。
ソグディス山が年中吹雪いていることは、よく知れたこと。
その只中に先刻まで彼もいたはず。
だが、さっきまで。
水晶が砕けるまで、衣織は雪の洗礼から逃れていた。
そっちがおかしかったのだ。
「どう、なってんだよ……」
ポツリと零した時、衣織は強い視線を感じて雪の向こうを見やった。
黒水晶があった方向に、一つの影が見える。
自分よりも身長の高い影。
防衛本能から、衣織は身構えた。
「誰だっ!!」
瞬間、雪の流れが和ぐ。
衣織は息を飲んだ。
流れるような白銀の髪が、風になびいて輝く。
白皙の面には高い鼻梁と薄い唇。
流麗な線を描く眉も、切れ長の双眸を縁取る長い睫毛も、髪と同色で。
雪に溶け込むような白いマントを暴風に翻していたのは、美貌の青年だった。
だが、衣織が硬直したのはその端整な容姿にでは無い。
男の瞳。
この山と同じように須らく白い青年の瞳は、吸い込まれてしまうような金色だったのだ。
- 9 -
[*←] | [→#]
[back][bkm]