「えっ!?」

銃で攻撃された黒水晶は被弾した瞬間、粉々に砕け散ったのだ。

キラキラと空中に舞う黒い欠片たちに、言葉を失った。

ダガーでは傷すらつけられなかった硬度を誇る水晶が、見る影も無く宙を泳いでいる。

「な、んで……」

凶器を手にした右手をダラリと下ろし唖然としていた衣織は、突然蘇った吹雪に驚いた。

「は?ちょっ!なにっ?」

なにっ?では無い。

これが正しいのだ。

ソグディス山が年中吹雪いていることは、よく知れたこと。

その只中に先刻まで彼もいたはず。

だが、さっきまで。

水晶が砕けるまで、衣織は雪の洗礼から逃れていた。

そっちがおかしかったのだ。

「どう、なってんだよ……」

ポツリと零した時、衣織は強い視線を感じて雪の向こうを見やった。

黒水晶があった方向に、一つの影が見える。

自分よりも身長の高い影。

防衛本能から、衣織は身構えた。

「誰だっ!!」

瞬間、雪の流れが和ぐ。

衣織は息を飲んだ。

流れるような白銀の髪が、風になびいて輝く。

白皙の面には高い鼻梁と薄い唇。

流麗な線を描く眉も、切れ長の双眸を縁取る長い睫毛も、髪と同色で。

雪に溶け込むような白いマントを暴風に翻していたのは、美貌の青年だった。

だが、衣織が硬直したのはその端整な容姿にでは無い。

男の瞳。

この山と同じように須らく白い青年の瞳は、吸い込まれてしまうような金色だったのだ。




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