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相当量、もしくは上回る量のエレメント使役が必要なガード。
素晴らしい盾によって自身の身を守った雪に、神楽は確信を得る。
「エレメントの動きをも察知していました。間違いなく華真族の者です」
淀みなく紡がれる報告は、ガチャリと音を立てて開いたドアから姿を見せた、ハニーブロンドの青年によって中断された。
「やっぱり、華真族だったんだ。銀髪金眼って言ってたから、予感はしてたけど。神楽、長期任務お疲れ様」
にっこり微笑む直属の上官に、神楽は完璧な敬礼を送る。
「はっ。神楽=翔庵少将、ネイドへの長期任務より帰還致しました」
「うん、お疲れ様。今、紫倉と一緒にデータ確認してきたところ。『花』のテストもしてくれたお陰で、色々面白い情報が採れたよ」
我が物顔で自分の椅子に座る男を特に気にする風でもなく、火澄は碧の手にする報告書を横合いから覗き込む。
「わぁ。砂漠での水精霊の使役って、スゴいスゴい」
心からの感嘆なのか、はたまた馬鹿にしているのか。
微妙なラインで声を上げる大将に、碧は紙の束を彼に押し付ける。
「自分の仕事を俺にやらせんな。しっかり報告書に目ぇ通せや」
お前が言うのか?という問いはあったけれど、やはり神楽は口にしない。
こういう手合いは、何か言うだけ無駄である。
変に絡まれるのがオチだ。
「それ、碧に言われるのか〜。すっごい不満なんだけど」
こちらはハッキリと言葉にしたが、当の中将は煙草を取り出すと火澄に向かってニヤリと笑みを浮かべる。
「俺は武官なんだからいいんだよ。火ぃ貸せ」
「……紫倉は完全に君の信者だけど、僕には到底理解出来ないよ」
呟きながらも、指を鳴らしてやる。
パチンという軽い音と共に、煙草に小さな赤が灯った。
「俺の崇高さが一般ピープルに理解されてたまるか」
嘯く男は紫煙をゆっくりと逃がしながら不遜に笑い、上質な椅子を持ち主へと明け渡した。
まったく、これが上官に対する態度であろうか。
非難する気はないが、呆れるのは仕方ない。
神楽は不快感を綺麗な仮面で隠し、眼鏡のブリッジを中指で戻す。
「はいはい。じゃあそろそろ、君の有能さを存分に発揮してもらおうかな」
その台詞に、樹海色の短髪を持つ男は、肩眉を上げてみせた。
蜂蜜色の下で輝く赤い瞳は、一瞬のうちに真剣な輝きを宿している。
現れた統率者の顔。
「碧中将に命じる。レベル3より数名を選抜し、大至急東国シンラに飛べ」
「任務内容は?」
短く問い返す中将に、彼はきっぱりと言った。
「雪=華真との交渉だ」
ならば神楽の方が適任だと思ったのは一瞬。
碧を派遣する意味。
「応じない場合、実力で連行しろ」
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