「すごっ……」

衣織は眼前に広がる光景に、目を丸くした。

鬱蒼と茂る緑と、流れ行く水。

貿易船は王都エイオスの港に入港を果たし、二人はそのまま街へと足を向けたのだが、この国は衣織の知るなかで、飛びぬけて不思議な世界だった。

大通りに立ち並ぶ店の頭上を、細い水の糸が何本も行き交い、爽やかな日光を反射して虹色の輝きを生んでいる。

そこかしこに植えられた木々はどれも天に向かって勢いよく背を伸ばし、ビリジアンの豊かな葉を数メートルもの上方で揺らしている。

のんびりとした歩調で歩く人間の多くは、身軽な着衣の上に裾の長いマントやローブを羽織っていた。

「なんか、異世界に来たみてぇ」

ボソリと呟くと、傍らの術師がクスリと微笑む。

「どれも術が宿っている。エレメントの密度が濃い」

いつもより、僅かに明るい声色に少年は首を傾げた。

「なんか、機嫌よくねぇ?」
「精霊の状態がいいからな。いい国だ」
「うわっ」

雪のマニアックな発言は、少年の高揚した気持ちを打ち抜いた。

エレメントの状態がいいだなんて、そんなこと衣織に分かるわけがない。

大体、状態の良い悪いってなんだ。

若干引き気味の衣織に気がつくと、雪はムッと眉を寄せた。

「なんだ、その目は」
「別に……何でもないですよ?」
「嘘だな」
「キモイとか思ってねぇから、ミスター精霊マニア」
「お前……」

本気で怒り出しそうな表情に、衣織は慌てて話題を逸らした。

「あぁ、ほら、なんだっ、早く目的地に行こう!な!?こんなところでモタついてたら、一生辿りつけねぇしさっ」

いや、一生はあり得ないだろう。

内心一人でツッコミながらも、衣織は足早に歩を進める。

背後から迫るオーラが、ちょっぴり恐いのだ。

ここは東の地――シンラ。

術師の今度の目的地は、あまりに幻想的な王国であった。




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