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「じゃあな、元気で」
すっと身を離し、衣織は身軽にジープに乗り込んだ。
見上げてくるラキの面は、予想通り涙で濡れていたけれど、その雫が絶望でないことは明白だった。
露草は仕方ないといった風に微笑みながら、彼女の頭を撫でる。
その仕草に、衣織は内心で首を傾げた。
自分と同様に、まるで妹扱いをしているように思えたのだ。
「この国が安定したら、また来いよ。今度は観光でもしてけ」
「そのときは宿代わりにさせてもらうから」
にっと笑うと、少年は露草をちょいちょいと手招き。
寄ってきた彼の耳にボソリと教えてやる。
「ラキ、その内ぜってぇ美人になるから、なるべく早く自覚した方がいいぞ」
「は?」
ビシリッと顔を強張らせた総領主に意地の悪い顔で応じたとき、ジープがタイミングよく発車した。
「じゃあなっ!!」
「いや、待て、おい、どういう……」
「バイバイ!二人ともまた来いよっ!!」
両手を大きく振るラキに満面の笑みで応える。
慌てふためく露草は、取り合えず無視だ。
砂漠に飛び出せば、すぐに彼らの姿は小さくなった。
もう、向こうからもこちらは見えないだろう。
それでも衣織は、カシュラーンの城門を見つめ続けた。
この国の混乱は、まだ始まったばかり。
一人の青年によって、かき乱されたばかり。
しかし、熱砂に逞しく生きる民に守られた、生命力のある国なのだ。
頭上に爛々と光る太陽は、ネイドと共にあり続けるであろう。
ネイドに政府が誕生した知らせが、世界中に知れ渡るのは、これから約三年後のことである。
to be continued...
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