自分は無力だ。

艶やかな青年の姿が脳裏に浮かぶ。

昨夜とはまるで正反対の思いで、少女は唇を噛み締めた。

『貴方は私にとって、非常に扱いやすく、愚かで幼稚な協力者でした』

本当にそうだ。

どんなに自分は愚かだっただろう。

思うがままに操ることが出来ただろう。

握り締めた拳が、小刻みに震える。

「ラキ……」

案じる声と共に、露草の手がそっと肩に置かれた。

けれど、彼の手を掴んだ小さな手は、思いの外しっかりとした力を有していた。

「ソウ、駄目だから」
「ラキ?」

オレンジの髪を揺らし、少女の面が上がる。

鎮座する橙色の輝きに、露草は息を呑んだ。

「ソウに総領主は辞めさせない。レジスタンスは、アタシが説得する。ソウの目的がアタシたちと同じだって、皆に話す」
「けどな、ラキ。もう私兵はレジスタンス一つを殲滅してるんだ。もしかすればお前のところは信じてくれるかもしれないが、他の組織が納得するわけ……」
「それでも納得してくれない人がいるなら、政府発足を妨害する人間とみなして、アタシは戦う」

明言したラキの言葉に目を見開いた。

「ラキ!お前、何言ってるか分かって……」
「分かってるっ!!けど、ソウがやったことじゃないもの。この国が内乱になれば、もう取り返しはつかない。やれるだけのことはやらなくちゃ。アタシはレジスタンスのリーダーとして、真実をみんなに話す義務があるんだ、話し合いっていう戦いを選ぶよ」
「……話し合いが通じなければ?」

硬質な響きにも、ラキの決心は揺らがなかった。

「納得させる、どんな手を使っても。内乱なんて起こさせない」

何かをなし得たいのならば。

誰かを守りたいのならば。

奇麗事だけでは済まされない。

泥を被る覚悟がないのなら、この手には一つの光も残らない。

もう、少女は迷わない。

レジスタンスのリーダーとしての決意は、とうに決まっていた。

今、ラキが胸に立てた誓いは、戦いを始める覚悟なのだ。

「ソウ、私と一緒に戦って」

こんなにも力強い瞳で射抜かれて、誰が拒めよう。

降り注ぐ太陽光を浴びる小さな身体は、あまりに清い。

露草はそっと地面に片膝をつくと、右手を心臓に、左手で少女の手を取る。

ひどく厳粛な気持ちで口にする。

「当たり前だ、お前は俺たちのリーダーなんだからな」
「ソウ……」
「何があろうと、お前と共に……ラキ」

そっと手の甲に落とされた唇に、ラキは最後の小さな輝きを零したのだった。

血塗られた道すら、共に歩もう。

すべてを護るために。




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