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「どういう、こと?」
いつものようにニヤリと微笑む露草に、どうしてだろう。
不安がよぎる。
彼がこうして笑うときは、どんな時だって安心出来たのに。
それなのに、なぜ。
答えはすぐに知れた。
「俺は総領主・露草として、今回のレジスタンスに対する強制武力鎮圧の、全面的な謝罪を行う。そして、償いとしてレジスタンスの要求を受け入れる」
「え……」
「ラキ、お前はレジスタンスリーダーとして、ネイド政府発足を俺に要求するんだ」
「待って、待ってよ!」
大声で遮られて、ワザと少女の戸惑いを無視していた露草は、諦めたように口を閉ざした。
葉月に反対された提案は、これだった。
ラキは恐る恐る男の目を覗きこんだ。
「ソウは、どうなるの?」
「……」
確かに、彼の言う通りにすれば政府は誕生するかもしれない。
けれど、あまりに手段が強引過ぎる。
これでは総領主である露草の立場が。
「まさか、ソウ……総領主を辞めるつもり?」
愕然と彼を見上げるラキの表情は、信じられないものを見るかのようだ。
「お前は気にしなくていい」
「なんでっ!?だって、だってソウは何にも悪くないっ、武力鎮圧は翔がっ……」
思わず出した男の名前に、ラキは一瞬だけ言葉を詰まらせ、けれど再び口を開いた。
「翔が指示をしたことでしょっ!?ソウが総領主を辞める必要なんかないよ!」
初めてだった。
翔に裏切られた時。
胸を穿つ衝撃が、悲しみを届けた。
辛くて、悲しくて。
けれど、彼を恨んだことはなかった。
多くの仲間を殺されたと言うのに、恨むことが出来なかった。
それなのに、今。
翔が憎くて堪らない。
偽りの指示を葉月に与え、反総領主思想を蔓延らせ、この国を混乱に突き落とした翔が。
露草を陥れた翔が、憎い。
何より、悔しかった。
自分はそんな狡猾な本性を見抜けず、あまつさえレジスタンスとして彼に協力したのだ。
結果論とはいえ、その事実は変わらない。
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