「ソウさんは俺たちが雇われたと知らなかったから、俺に切りかかってきた。ラキの恩人?って言うことも。だから、私兵が計ったようなタイミングで襲撃するのは無理なんだよ。あの短時間じゃ情報流すなんて不可能だろ?」

初めてアジトに通されたときに、ソウは本気の怒りをもって衣織を攻撃した。

もし雇用契約を結んでいることを彼が知っていれば、そんな諍いは生じなかったはずだ。

逃れたはずの答えが、ラキの背を追う。

「最低でも前日。あれだけ大規模な襲撃だったんだ、私兵には前もって準備をする猶予がいる。要するに、武器の搬入日と俺らを雇う日を一致させて、なお且つ私兵に情報を流すだけの余裕を持っていた人間がいるってことだ」

そのためには、レジスタンスの動向をすべてを把握していなければならない。

少年の黒曜石が、玲瓏と輝いた。

「全部の情報を知っているヤツが一人、いるだろ?」

もう逃げ道はなかった。

幹部にしか明かされていない、武器搬入の日を知っていて。

何でも屋を雇ったことも把握して。

尚且つ、ソウが露草であったと語った人物が。


「翔さん、アジトの場所を流したの……あんただろ?」


衣織はラキのすぐ後ろに立つ儚げな青年を、真っ向から射抜いた。

「ち、ちょっと待ってよ!だって、なんで、なんで翔がっ!?」
「俺たちを雇えって言ったの、翔さんだよな?」

擁護するのは、自分のためでしかなかった。

ペンダントを取り返しに行く時、翔は提案したのだ。


――あの二人をレジスタンスに勧誘してはどうですか?


彼の運転するジープの車内、二人きりしかいなかったあの空間で、翔は言った。


――あのさ、もしかして俺たち雇おうって提案したの、翔さんか?


鮮明な記憶が、チカチカと明滅を繰り返す。

あの時の衣織の問いを、理解してしまった。

「セカンドブロックに一人で現れたのは、ソウさんだけじゃないんだよ」

露草に向けた疑いの条件を、翔は全て満たしていた。

「う、そ……」

後が続かなかった。

硬直したように固まったラキは、ただ短い呼吸を行うだけ。

彼が裏切り者であったなんて、信じられない。

違う。

信じたくない。




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