どうして。




幼いながらもレジスタンスを率いて戦った少女は、反総領主思想が蔓延った今、世間からは聖女のように、また反乱軍のリーダーのように奉られた。

「ラキ、北部のレジスタンスから共同戦線の話しが来ています」
「そう」

激しい戦闘から五日も経つと、翔も大分回復して私室にいたラキに、一枚の手紙を差し出した。

気のない返事で返す少女に、不思議そうに首を傾げる。

「私たちと同じ、政府発足を目指す同志ですよ?ここの組織は戦力も保持していますし、次こそは更に多くの仲間を集って総領主体制の崩壊を……」
「ねぇ」
「どうしました?」

話しを遮ったラキの面は不安に彩られていた。

「どうして、翔は平気なの?」
「ラキ?」

意味を図りかねて、小さなリーダーを眼鏡の向こうから注視する。

伝わらないことに苛立ったように、ラキはベッドから立ち上がった。

「だって、だって総領主は、露草はソウなんだよっ!?」

露見したばかりの真実で負った心の傷は、未だ少しも癒えてはいない。

頼りになった、優しい仲間。

ムキになりやすい子供っぽい一面も持った、共に戦った仲間。

それなのに。

「どうして翔は、そんなに平気そうにしていられるのっ!?」

胸倉を掴んで叫ぶラキに、翔は眼鏡のブリッジを押し上げてから、凍てつくような瞳で口を開いた。

「では、どうしてラキは平気なのですか?」
「え?」

非難するように見つめられて、心臓がドキリと跳ねる。

「彼のせいで、多くの仲間が死にました。露草がアジトの場所を流したせいで、レジスタンスの半数を失いましたっ。私たちの信頼を裏切った彼を、貴方はどうして許せると言うのですかっ!?」

言い返す言葉もなかった。

同じ考えを持って歩んできた沢山の仲間は、確かに露草によって殺されたも同然だ。

呆然と立ち尽くす彼女の小さな手をそっと首元から外すと、翔は諭すように痛みを圧縮したような声で続ける。

「衣織さんも、雪さんを失いました。彼らは私たちが巻き込んだのです。分かりますか?私たちには、総領主を倒す義務があるんですよ」
「っ……」

ファーストブロックに雪を探しに行ったという衣織から、雪の死亡を報告されたのはつい先日のことだ。

血が染みになった、元は純白のマントを握り締め悔しそうに顔を歪めた少年に、何を言えばいいのか見当もつかなかった。

自己嫌悪に陥り俯く少女に、翔はふっと優しく微笑むとその細い体を抱きしめた。

「大丈夫、貴方には私がついています。必ず、露草を倒しましょう」
「……」

もう、どうしたらいいのだろう。




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