情報開示。
彼の眼の輝きに、衣織は頭の霞が晴れていくのを感じた。
鮮明になっていく視界に映りこむ、精緻に整った雪の姿。
抱きしめられている感覚に、ひどく安心する。
「あんた、どうして……」
彼の腕を不快に思うこともなく、少年は術師に向き直った。
真っ白なローブは飛び散った血痕で薄汚れてはいたけれど、存外青年の様子に変わりはなかった。
「生きてたんだ」
「死んでると思ったか?」
「期待はしてた」
ニヤリと微笑むと、雪の眉がムッと寄った。
軽口を叩く衣織に安定を察したのか、彼の体がスルリと離れた。
あんなに自分を追い詰めた紅の世界は、もう少年の双眸には映っていない。
取り乱していた自分に羞恥心を抱くより、雪に抱きしめられて正気に戻れたことが不思議でならなかった。
混乱の渦に飲み込まれた脳内に、何の抵抗もなく入り込んだ彼の声。
温かくて優しい、庇護の腕。
助けられたのだと、本能で理解していた。
「……ありがとな」
微かに微笑んだ衣織は一瞬だけ寂しげに見え、雪は気にするなと言うように頭を叩く。
青年の手を借りて立ち上がると、やはり空間に満たされた濃い腐敗臭に頭がくらついたけれど、もう少年が世界に取り込まれることは無かった。
「怪我は?」
「問題ない」
雪の言葉に企て顔の笑顔を見せる衣織は、もうすっかりいつもの彼だ。
「そか。じゃ、お互いの情報開示と行きますか!」
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