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レジスタンスよりも圧倒的に多い私兵の死骸に違和感を覚えたとき、衣織は堪え切れずに顔を覆った。
「っ、はっ……ぁ」
一度紐解かれた悪夢は過去に見たビジョンと現在を倒錯させ、違うと理性が叫んでも、それを嘲笑うかのように少年を易々と追い詰める。
違う。
これは、違う。
震える膝に力を込め、刺激臭にも構わず深呼吸を繰り返す。
「……ぶ、大丈夫」
催眠をかけるように何度か呟いてから、衣織は外界を遮断していた手を外した。
「……っ、あっ……」
しかし、黒い瞳に映し出されたのは、ファーストブロックでは無かった。
世界は紅に染まっていた。
あの強烈な死体の群れすら視界から消え去り、だだっ広い空間は真っ赤に見える。
これが自身の心が創り出した幻影であると、正気を欠いた彼に理解する術はない。
「あぁ……ぁ……っ」
嫌だ。
嫌だ。
コレは、嫌だ。
充満した死臭に惑わされ、脳内に鳴り響く警鐘が更に逃げ場を奪い去る。
「……ぃ、……さぃっ、ごめっ……」
自分がその場に蹲っていることにすら、衣織は気付いていなかった。
目に一杯に映る紅。
罪の色。
紅の罪。
「あぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
痛烈な叫びが木霊した。
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