水のように。




露草ははぐれたと言っていたが、翔の見解では殺された可能性があるという。

そう。

雪のことだ。

衣織は日の落ちた砂漠で、破壊されたファーストブロックの入り口を見つめていた。

セカンドブロックの正規の出入り口は、シドの経営する酒場の倉庫と繋がっているらしく、彼にラキを任せて衣織は一人その悲惨な現場にやって来たのだ。

レジスタンスの残党として指名手配されていることも危惧していたが、それは要らぬ心配だったようで、状況把握がてら市場を通ってもみたが、誰に声をかけられることも、まして私兵と遭遇することもなかった。

市場で仕入れた情報と言えば、数ヶ月間行方をくらましていた総領主が邸宅に戻ったという話と、総領主がレジスタンスに強行武力制圧を行ったという噂だけだ。

どれも今更な情報ばかりだったが、衣織が一番驚いたのは、私兵襲撃からすでに2日が経過しているということだった。

光の入らない地下であったのと混乱に支配されていたせいで、時間の概念を忘れていたようだ。

生きていればどうにかしてセカンドブロックに現れるであろう雪が、死んでいるとは思っていなかったが、それでも瀕死の状態だとすれば2日の放置は危険である。

汚れて着れなくなった服の代わりに借りた着衣のボトムは少し余って、裾を踏まないようにしながら、衣織は爆破されたファーストブロックのトンネルを潜った。

「生きてんのかな?つーか、ここに居ろよな」

アレだけ目立つ容姿の男だ。

街に辿りついたのならすぐに噂されるはずだが、そんな情報は引っかからなかった。

もし雪がいるならば、ここしか考えられない。

ずんずん足を進めながら、衣織は律儀に探してやる自分を内心で褒めた。

あって間もない男の安否を気遣ってやる自分は、なんて慈悲深いのか、と。

もちろん捜索ためだけに、足を運んだわけではなかったけれど。

「骨は拾って帰ってやるよ」

嘯きながら襲撃により足場の悪くなったトンネルを進むと、いくらもしない内にツンと鼻を穿つ臭いがした。

「血と、硝煙……」

そして、腐乱臭。

懐かしい混合臭に眩暈を覚えながらも、衣織は足を止めなかった。

やがてファーストブロックのホールが見えてきた時、その壮絶な情景に少年は言葉を失った。

大量の銃撃を浴びたせいで四方の壁は砕け落ち、乾いてどす黒くなった血痕が至る所に見受けられる。

何より、人形のように折り重なり足の踏み場もないほど積まれた死体は強烈だった。

南国の気候と閉鎖空間のせいで、死体の腐乱は急速に行われ蝿や蛆がわき、蠢くそれらは神経の細い者でなくとも直視出来ない有様。

こみ上げる不快感に耐え、衣織は注意深くそれらを観察した。

亡骸はレジスタンスだけではなかった。

赤茶けて判別しにくいが、私兵の制服を纏った骸が山となっているのだ。




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