聖少女。




「翔の傷、大丈夫だって」
「……そっか」

病室として使用されている部屋から出てきたラキは、胸を撫で下ろした。

翔の負傷は一見派手に見えるものの、出血の量に比べて傷は浅かった。

痕も残らないだろうと、ドクターからのお墨付きだ。

「レジスタンスのメンバーには、ちゃんと説明したのか?」
「うん……」

先ほど意識を取り戻した翔に、彼を除く残留組が銃器を使用した私兵に殲滅されたことを報告された。

総領主が露草であったこと。

戦闘要員が全滅したこと。

結果は散々たるものだ。

「レジスタンスも、解散かな」

ホールの長椅子にラキは腰を下ろした。

昨夜から酷使し続けた体は鉛のように重く、緊張が途切れた今、睡魔に襲われ始めてもロクな抵抗は出来なかった。

朦朧とした意識の中、それでも不安を吐き出したくて、少年の背中に向かってなんとか口を動かす。

「ソウも、いなくなって……せんりょ、くも……もう、ムリかな?」

混乱することを許される立場にないと、もう十分に自覚していた。

けれど、メンバーが部屋にはけてしまった今、ほんの少しだけでいい。

弱音を言わせてと、願わずにはいられない。

裏切られた事実は、ラキにとってアッサリと割り切れることではなかった。

「そうでもないだろ」

優しく頭を撫でられれば、気遣うような掌の温かさが心地いい。

泣いてしまいたい衝動を、瞳を閉じてやり過ごす。

途端、急速に眠りの世界へと誘われた。

「なぁ、一つ聞いていいか?」

太陽のようなオレンジの髪をしばらく撫で続けながら、衣織はそっと彼女に囁きかけた。

「ん……な、に?」

応じる声はもう上手く口が回っておらず、思考能力は低迷していそうだ。

可哀想に思ったが、確かめなければならないことがあった。

「あのさ、もしかして―――か?」
「え、うん。そう、だけど」
「そっか、眠いのに悪かった。少し休め」

コクンと緩く頷くや、ラキはスゥスゥと小さな寝息を立て始めた。

まるで妹のような存在に、知らず微笑みが零れる。

あどけなさの残る少女の面にしばし目を落としていたが、視線を上げた彼の表情は厳しさに満ちていた。




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