ナルサスの思惑 4/7
「交換条件としようか」
ナルサスはそう言って、駆け引きを持ち出した。それを聞いたナーマエの頭がわずかに揺れた。
「カーラーンとの決戦で策を講じようと思う。日の国の使者の力を借りたい」
そう言うと、めずらしくナーマエの目が泳いだ。そして、困ったように告げた。
「それは、無理な相談です。その力を使うためにこの国の知識が必要なんです」
ナルサスは意表をつかれる。そしてすぐに理解した。
――とすれば、はじめから自分に選択の余地はなかったわけだ。
今、この明かりのともった空き家の一室で、ばつが悪そうな顔の異国の使者を目の前にして、ナルサスは思う。
完全な早とちりだった。日の国の使者は不思議な力を使えない。今はただの娘だ。
ナルサスはため息を吐きたくなった。
「では、何をもって払ってくれる……。その体か? 今夜をともにするとでも言うか……」
と自分でも、見当違いの条件を持ち出したなと思いながら、乗り掛かった船から降りられなくなっていた。
ナーマエは思わず口を開けた。
「……冗談ですよね」
「さあ、どうだろうか。なにせおぬしの返答によるのだから」
半ば投げやりに半ば大胆にナルサスはそう言い放った。