ナルサスの思惑 1/7

「ナーマエ、話をしようか」

ナルサスがやってきた。ナーマエは顔を上げる。外でフクロウが鳴く声が聞こえている。ゆらゆらとランプの灯火が揺れていた。


その夜、アルスラーンたちは廃墟となった村にいた。そこの一角で、旧ダイラム領主と異国の使者が話をしている。

向かいに座ったナルサスの話を聞きながら、ナーマエは不思議そうな顔をした。

「カーラーンはどうしてルシタニアに肩入れを……?」

「それがはっきりせぬ。パルスが裏切りによって王座を空にすることなど前代未聞の話で、カーラーンにしてもなにかそそのかされたのではないかと思うほどだが」

ナルサスはそう言って腕を組む。

ナーマエの頭に浮かんでいたのは、バシュル山で出会った6人の騎士と、そのとき生まれた疑念だった。ナルサスはカーラーンの裏切りについて、なにか知っているものだと思っていた。

ナーマエは机に視線を落とす。

「王家の忠臣とあろうお方がそのようなことをするなんて、腑に落ちません」

パルスは統制のとれた国であると聞いていた。あのとき、彼女は思いもよらない事態を予感したのだ。

「ああ。だが裏の事情は、本人に聞くよりほかないだろうな」

そう言って、ナルサスはかぶりを振った。


この時すでにカーラーンがアルスラーン王子を狙って動き出していた。王子を出頭させるため、村が焼かれ、罪なきものが殺されている。

カーラーンとの決戦の日を早め、この先の村が焼かれないようにすることが、取るべき選択肢なのだとナルサスは言った。

「こんどは獅子の巣に入るのもやむをえん。おれやダリューンがいつでも守ってやれると思わぬことだ」

ナーマエは「その点は」と答えた。

「きっと心配ないですよ。私は安全な場所は知ることができるし、ただの兵士ならなんとかなるものです」

「ふむ……」

ナルサスは黙ってしまう。

なんて能天気な。つい先日、守ってくれと頼んだではないか。彼はそう思ったのかもしれない。

そう。日の国から来たこの使者は、馬は速いが、とにかく弱い。兵士の1人も倒せない。それでもナルサスが彼女を快く迎えるのは、旧友だからというだけではなく、別の理由があった。

この使者は一見ただの娘だが、ともすれば国を治める者たちがこぞって欲しがる能力の持ち主であるとナルサスは知っていた。

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