バシュル山の逃亡戦 1/7

時刻は真夜中をとうに過ぎていた。青白い月がこちらを見つめている。
ダリューンは馬で疾走しながら、先ほどの出来事を思い出していた。



バシュル山の深い森の洞窟に身を隠していたとき、異国から使者がやってきた。その使者は若い女だったが、殿下につかえることになった。

――記憶の中で、洞窟の中を松明のほの明かりが照らしていた。そこにはナルサスと使者が座っていて、バシュル山逃亡の作戦を話し合っていた。

ナルサスが使者に尋ねた。

「どこから山をおりるべきだと思う?」

その使者、ナーマエはややあって答えた。

「そうですね。向かうならば、兵力の薄い北東かと」

「ふむ。王都へは少し迂回になるが妥当なところだろうな」

ナルサスは少し考えて、すぐにダリューンの顔を見た。

「ではダリューン、北東の方角だ。そこから突破するぞ」

ダリューンはまばたきした。

どうして一片の迷いなく、ナルサスはおれにそう提言できるのだろう。異国の使者、ナーマエの情報に信憑性はあるのだろうか。

「使者どのを疑うわけではない。しかし、そう簡単に決めていいものだろうか」

ナルサスは言った。

「信用できぬというか? 万一、嘘だとしてもそれも一興。おぬしならどうにでもできる話でおもしろいではないか」

ナルサスは笑みを浮かべた。

「なあ、ダリューン。日の国王がただの学者を送り込むと思うなよ。だまされたと思って従ってみろ――

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