落とし穴 3/7
この国からはるか遠く、アトロパテネの平原でパルス軍とルシタニア軍の会戦があった。
パルス軍は大敗しルシタニアの手によって王都は陥落。敗走したパルスの国王と王子は行方不明になっている。
ナーマエの故郷であるこの国は、パルス国と国交があるため、少しでも手助けになればと、パルス国に支援することを申し出るそうだ。
わが国王は特に初陣した王子を心配しておられ、行方不明の王子を探しあててお手伝いをする。
幸か不幸かその白羽の矢が彼女に立ったのだった……。
ナーマエに古い記憶がよみがえる。かつてのその公益の熱気にあふれた王都エクバターナの情景が目に浮かんでいた。
パルスは繁栄の大国で、今会戦までは無敗を誇る強兵の国だった。
国王の話を聞いてナーマエは浮かない顔をした。
「国王様、私は武術のたしなみがございません。運良く王子のもとにおもむけたとしても、力不足ではないでしょうか」
戦いはなおも続くときく。ルシタニアの兵士やパルスの敗残兵があたりをうろついていることだろう。
そこに彼女が飛び込めば、徘徊する兵士に殺されてしまうのが目に見えており、王子のもとにたどり着くことさえできないのだ。
「それならば護衛をつけなさい」
国王はつづける。
「そなたはたしかに剣をもって闘うことはできぬ。だが馬の扱いに長けておる。誰よりもはやく駆けて敵の手を逃れられる。それに……わかっておろうが、その学問と神秘の力をここで利用しない手はないのじゃ」
国王はそう言って、ふとなにか思い出したように付け加えた。
「彼はなんといったかな、ほらパルスの才知に優れた、今は山奥に暮らすそうじゃが。ひとまず彼のもとに出向くとよい。王子をさがす折にはなにかヒントを与えてくれるかもしれん」
ナーマエは再び記憶をたどった。頭に浮かぶその姿は昔のもので、それから長く年月が経っていた。
不安な気持ちは残る。期待に添えるかどうかもわからなかった。
けれど、ナーマエは丁寧に答えた。
「国王様のご命令とあらば断る理由はございません。喜んでおおせのままにいたしましょう」
それを聞いて国王は顔を輝かせる。意気揚々とこう言った。
「そう言うと思っておった。さあ、時は一刻を争うぞ。手紙を書いておこう。すぐにでも出発するのじゃ――