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「#オメガバース」のBL小説を読む
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ヤマケンくんが図書館に来たかった理由は、現代経済のレポートに必要な資料を集めるためだったらしい。わたしはわたしでちょうど借りたい本があったので、一時解散しわたしがそれを見つけ次第合流するということになった。それにしてもわたしが来る意味は本当にあったのかな、ってこれ、合コンの日にもそんなことを考えていたような。いろいろなことに思考をめぐらせながら探していた本を手に取る。すんなり見つかったそれを胸に抱えヤマケンくんのところに行こうと試みる。確かEエリアの方に行くと言っていたはず。少し歩いたところでE-5と書かれた本棚にたどり着き、なんとなくここにヤマケンくんがいそうな気がしてその本棚から勢いよく顔を出した


「!」

「…」


ヤマケンくんがいると思っていたが、それは違っていて、わたしの視線の先にはふたつ結びの女の子がいた。着ている赤色のブレザーには見覚えがある。あれは確か松楊高校の制服。かわいいな、なんて思っていると目の前の女の子がわたしを凝視していることに気がつく。わたしは慌てて言葉をつないだ


「えっと、あの、こっちに金髪の人が来ませんでしたか?」

「…金髪はあなただと思うのですが。もしかしてあれですか、そいつがルパンだー追えー的な」

「…いえ違います。探しているのは金髪の男の子です」


わたしもわたしであったが、彼女も彼女で、淡々としたような話し方にジョークなのかはたまた本気で言っているのかわからないので笑うことも出来ず、真面目に答えるしかなかった。でも彼女は悪い人ではなさそうだ。そして不意に背後から誰かに肩をたたかれ、わたしは振り向く


「わっ、や、ヤマケンくん?!どこに行ってたの?」

「悪いなみょうじサン、少し散歩したくなったからな」

「完璧に迷子だよね、それ」


迷子とかやばい、かわいい。言い訳も散歩したくなったとかなにそれ、かわいい。というかわたしってば男の子にかわいいとか末期すぎない?それにヤマケンくんはかわいいというより、綺麗だし…、ってなにを考えているんだわたし。首を横に振りつつ、松楊高校の女の子の存在を思い出し視線を向けてみれば、彼女はヤマケンくんを凝視していた。やっぱり、ヤマケンくん美形だし女の子にもてるんだ。そんなことを考えていると彼女が口を開いた


「…ヤマケンくんの彼女?」


その言葉が意外すぎてわたしは一瞬きょとんとしてしまった。だって彼女、ヤマケンくんって呼んだしそれにわたしのこと彼女?って…、驚くに決まっている。なぜか否定するような様子もないヤマケンくんをみて、はやく否定しておかないと迷惑だと思ったわたしは慌てて身ぶり手振りを交えて言った


「か、彼女なんて…違います友達です。あれ?というか、ヤマケンくんこちらの方と知り合いなの?」


違うと言ったわたしを彼女は無表情で見つめていた。そして後半はヤマケンくんを見ながら言った。のだが、これまたなぜだかヤマケンくんは肩を落とし、顔をうつむかせてしまった


「ヤマケンくん?」

「思う存分に落ち込ませてあげた方がよいかと。私は水谷雫。ヤマケンくんとはちょっとした知り合い…だと思う」

「?、わたしはみょうじなまえです」


水谷さんの言っている意味がよくわからなかったけれども、いまはとりあえず名乗った。それでも彼女は無表情で、もう話すことはないと手にしていた本に視線を戻していた。そうなるとそれ以上は話しかけることができず、わたしはヤマケンくんに助けを求めるかのように見つめた。知り合いの彼ならなにか話題もあるだろうと思ったからの行動であったが、果たしてそれが伝わっただろうか


「行くぞ、みょうじサン」


伝わらなかったのか、はたまたヤマケンくんも特に話すこともなかったのか、それはわからないが彼はわたしの腕をつかんだ。けれども、知り合いならなにか話すことはあるだろうと思ったわたしは首をかしげた。だってわたしの知る限りではヤマケンくんは水谷さんと一言も話していなかったから


「え?でも」

「いいから」

「ちょ、ちょっと待って、階段はあっち…!」


それでもわたしの腕を引っ張ってやまないヤマケンくんを振り払うことなどできずに素直に従うことにする。そして方向音痴の彼が全然違う方向に向かおうとするのを制した。最後にもう一度だけ水谷さんに視線を向けてみたが、やはり彼女が本から目を離すことはなかった。そのまま図書館を出ても歩みを止めることのないヤマケンくんを必死に追いかける。しばらく歩いてやってきたのはあのカフェであった。ヤマケンくんがひとりでたどり着くことができるなんて奇跡!そんな失礼なことを考えていると、ヤマケンくんは店に入るようにわたしを促した。促されるがままに店内に入り、店員に案内された席に座る。ちらりとヤマケンくんの方を見てみるが、彼がなにを考えているのかまったくわからなかった。仕方ないので、少し気になったことを訊ねてみることにした


「…もしかして水谷さんってヤマケンくんの元カノだったりする?」

「は?何?それ」

「いや、だって…雰囲気が気まずそうだったから」

「それはいつものことだから。あいつはいつもあんな感じだ」

「それにしたって…、それか好き、とか?」


自分で言っていてなんだか悲しくなった。もし肯定でもされたらどうするのわたし。わざわざ傷つくようなことするなんてわたしは馬鹿だ。こわくて彼の顔を見ることができないわたしは、いつのまにか運ばれてきたアールグレイティーの入ったカップをひたすらに見つめていた


「は?だからなんなのそれ」

「…だって。そのシャーペンさっきまでなかったよね?それに水谷さんに彼女なのって聞かれたとき、なんだかショックそうだったし…って首突っ込んじゃってごめん…!」


ヤマケンくんの学ランの胸ポケットにおさまっているてんとう虫のマスコットがついたシャーペン。これは確かに解散する前まではなかったはず。だからきっとそれは、わたしとヤマケンくんが合流する前に水谷さんに会って、なんらかの理由で胸ポケットにおさめられたんだとそう思った。けれどもそんなのはすべてわたしの勝手な憶測。出すぎた真似をしてしまったと後悔しながら、今度はそのシャーペンを見つめた


「…あのね、みょうじサン。俺が好きなのは、…まあ、いいや。これ、返しに行くのにちょっとつき合って」

「え、」


わたしが見つめ続けていたシャーペンをヤマケンくんは弄びながら席を立った。その行動がなにを意味するのかなんていまのわたしにはまだわからなかった

(ねえ、言いかけた言葉の続きを教えてよ)



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