気がつくとわたしは、いや、わたしとカカシくんは辺り一面が真っ白な空間にいた。わたしたちふたりだけがカラフルで、他は白一色。けれどもなぜか、この空間はあたたかい。わたしがカカシくんを見ながら首をかしげれば、彼もまたわたしと同じように首をかしげた
「なまえ、カカシ、久しぶりだね」
どこからともなく声がして、そちらを見ると、先ほどまで真っ白だったそこに黄色が浮かんでいた。そしてはっきりしてくる人影。その正体はもう何十年も前にこの世を去った最愛の師であった
「ミ、ナト先生…?」
「ん!二人とも大きくなったね」
わたしがそっと師の名前を呼べば、目を細めて慈しむような声で言った。どうしてミナト先生がここにいるのだろう。そんな疑問よりも先に嬉しさが溢れてきて、わたしは思わず駆け寄り抱きついた。少しよろめきながらもわたしを受け止めてくれたミナト先生に本当に会えたんだと自覚した
「ミナト先生ごめんなさい。わたし、先生を助けられなかった」
名残惜しかったが、わたしはミナト先生から離れると謝罪の言葉を口にした。仕方がなかったとはいえ、今日までわたしは何度悔いたことかわからない
「なまえが謝ることじゃないよ。それよりなまえもカカシも生きていてくれてよかった」
その言葉を聞いた瞬間涙が溢れてくる。一度溢れた涙は止まらずどんどん溢れてきて。そんなわたしの手をミナト先生が握った。するとなぜかカカシくんもわたしの手を握ってきた。疑問に思ったわたしがカカシくんを見上げると、どこか複雑そうな表情をした彼と目があった
「ん、なるほど。二人はやっと通じあえたんだね?」
なにもかもわかっているというような顔でミナト先生は言った。なるほどってなんだろう。やっとってなんだろう。わたしは少々首をかしげながら再びカカシを見た。そんなわたしにカカシくんは目を弓なりにして微笑んだ
「はい。愛し合ってます」
「か、カカシくん?!せっ先生の前でなにを…!」
そしてなぜかわたしの腰を引き寄せてきたカカシくんに慌てる。どうしてこういう流れになるのか、わたしには理解ができず、ただ混乱していた
「んー、仲睦まじいことはいいことだけど、君にも少し俺との再会を喜んでほしいよ。なまえみたいにね」
そんな言葉とともにミナト先生はウインクしながらわたしの頭を撫でてきた。それを見ていたカカシくんとにこにこしているミナト先生の間には、なんだか見えない火花が散っているように見えた
「実はナルトと同じくらいに君たち二人も心配だったんだ。でも元気そうでよかった」
今のいままでミナト先生に心配をかけていたなんて、嬉しいやら情けないやら。でも全然悪い気はしなかった
「カカシは写輪眼の調子どう?」
「もうすっかり違和感もなく使えてますよ」
「なまえは時空間忍術はどう?結局完成を見届けることが出来なかったから」
時空間忍術、その言葉にわたしはどきっとした。なぜなら、完成させるどころか、あの九尾の襲来より以降は時空間忍術を使っていなかったからだ
「ん、煮詰まってるようだね?それならこれを使うといい。これを君に託すよ」
ミナト先生がわたしに差し出したのは、あの特殊な形をしたクナイだ。これは先生の飛雷神の術を使うのに必須なものだ。わたしはおずおずとクナイを受け取った
「…ありがとうございます」
「ん!なまえには俺の忍道を継いでもらう約束だからね」
「はい…!」
ミナト先生が微笑んだとき、ふとその姿が透けてきていることに気がつく。せっかく会えたというのに、話せる時間もあとわずかなのだと察してしまって、また涙が浮かんできた
「そろそろ行かないとね。…カカシ、なまえのことしっかり守ってあげるんだよ?」
「勿論、分かってますよ」
「それと最後に、ナルトのこと、よろしくね?」
「任せてください!」
ミナト先生は、カカシくんとわたしの返答をきくと微笑み、ふわっと消えた。さようならミナト先生
「…!」
ふと目を覚ますと、見慣れた天井。隣にはカカシくんがわたしの腰にまとわりついている。なんだ、夢だったんだ。少し落胆して、カカシくんの顔を覗きこんで見ると、その目は開かれていた
「…カカシくん?」
「なまえも見た…?」
“も”ということはカカシくんもわたしと同じ夢を見たということ?なんだか信じられずにいると、左手に違和感。その違和感の原因を知りたくてそちらを見れば、その手に握るのはミナト先生から託すと言われたあのクナイ
「夢じゃ、なかったんだ。…本当に会えたんだ、先生に」
「どうやらそうみたいだね」
ミナト先生に会ったのは夢ではなかったと確信したわたしとカカシくんは、見つめあって笑った
(ミナト先生、またいつか)
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