確か今日はミナト先生とクシナさんの赤ちゃんが生まれる日。そのはずだったのに、なぜか目の前には巨大な九尾。九尾は遠慮など知らないように、里を破壊してゆく。それをわたしはただ見ているしか出来なかった


「これは里のごたごただ。お前たちのような若い忍が命を落とすことじゃない」


わたしと同世代の忍たちが集められ、そんなことを言われた。わたしは唇を噛み締めてうつむくしかなかった。九尾に突っ込もうとしても、カカシくんがわたしの腕をつかんだままだから動けない。どうせ止められて終わりだ。でもそれじゃあ、三代目さまは?クシナさんは?赤ちゃんは?ミナト先生は?里のみんなは?


「…わたしは!」


大人たちが去ったのを見計らってわたしは印を結んだ。それは以前からミナト先生に教えてもらっていた飛雷神の術。未完成のそれは、黄色い閃光と呼ばれているミナト先生とは違って、全然別の場所に飛んだ。こんなときでさえ、力を発揮できない自分にもどかしく思った。目の前にいる橙色に向かってひたさらに走る。その姿がだんだん近付いて、ふいに額になにかが当たってそれ以上は進めなくなった。それはどうやら結界のようだった


「どうして」


結界の中心部には、九尾とクシナさんとミナト先生。クシナさんは地面に突っ伏し身体から鎖を出し、九尾を押さえつけていた。それがなにを意味するのか理解するのは容易くて


「ミナト先生!」


わたしはありったけの声で叫ぶと、一瞬だけミナト先生がこちらを向いたような気がした


「なまえ!お主こんなところで何をやっておる!」


なんとかして結界を破らなければ、そう思って考えを巡らせているとふいに名を呼ばれた


「さっ、三代目さま!ミナト先生が!」

「…あやつは屍鬼封尽で九尾を封印しようとしている」

「屍鬼、封尽…それじゃあミナト先生が!クシナさんだって!」


まさか。まさかミナト先生とクシナさんはふたりだけの手で事件を終結させようとしている?だめだそんなのは、そんなのは。残されたものたちは?ナルトと名付けると言っていた赤ちゃんは?けれどもう、振り上げられた九尾の腕を目の前にどんなに頑張ってもミナト先生たちを止めることも助けることもできない。そう思っても諦めきれなかった


「なまえ!」


わたしが飛雷神の術を使うべく印を結ぼうとしたとき、どこからともなく現れたカカシくんに再び腕をつかまれた



「カカシくん…どうして!」

「お前が行って何が出来る?死ぬだけだ」

「そんなの!やってみなきゃわか、」

「わかる。先生たちの火の意志を汚しちゃいけない」

「どうして!カカシくんはミナト先生たちが死んでもいいの?!死ぬことが火の意志なの?」


言い終わるか終わらないかのうちに頬を叩かれた。静寂のなかその乾いた音だけが鳴り響いていた


「違う!里を里の家族を守ることが先生の火の意志だ。お前はそんなこともわからない?」

「わた、し、は…」


叩かれたことで冷静になってゆく思考。涙で視界が滲む。カカシくんの怒っている顔もぼやけていて。ふと結界のなかに視線を向けると、九尾の爪で身体を射抜かれているミナト先生とクシナさんの姿。頭のなかにはもはや絶望しかない


「み、ミナト先生…!」


わたし、まだちゃんと先生に時空間忍術を教えてもらっていないのに。螺旋丸だって教えてくれるって言ったのに。まだ、先生の忍道を受け継ぎきっていないのに!とうとう立っていられなくなったわたしをカカシくんは支えると、強く抱きしめた。わたしもカカシくんの背中に腕を回して大声でなきじゃくった





(これからはわたしがミナト先生の火の意志を継ぐから)







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