「今日だよね。ミナト先生とクシナさんの赤ちゃんが生まれるの」


珍しくふたり揃っての暗部での任務が終えて、すっかり夜が深まった里を歩いているとなまえは、思い出したようにつぶやいた。それは何故かどこか遠くを見ていて


「もしかしてなまえ、」


“やきもち?”なんて聞こうとして、肯定されたときがやるせないから口にするのをやめた。まさかなまえはミナト先生を好きなのか。確か下忍のころからなまえとミナト先生は仲良かったし…そう考えて俺は頭を振った。それはないと思いたい


「…なに?」


いくら待っても俺が言葉を繋ごうとしなかったから、なまえは不機嫌そうな声で尋ねてくる。ああ、俺って本当に嫌われてる?…ま、自業自得だけど


「いや、何でもなーいよ」

「そう。別にどうでもいいけど」


そう言ったきり、一言も発さないなまえを見て何だか気まずく感じた。思っているのは俺だけなんだろうけど。そんなとき、いつものように空気も読めないあいつが俺に勝負を仕掛けてきた


「カカシー!今日こそは俺が勝つ!」

「…ガイ」


猪突猛進、まさにその言葉が似合うガイになまえでさえもため息を吐いていた。っていうか、何でこのタイミングなのよ。そんなことを言ってもガイには通じないだろうが、心の中で思うのは自由なので許してもらいたい。ああだこうだ言ってくるガイを軽くあしらっていると、突然なまえが辺りをうかがうように視線を泳がせた


「…なんかさっきから空気が冷たい」

「なまえも?」


実は先程から俺も感じていた。どことなく里の雰囲気がおかしい。何かが起こりそう、そんな感じだ。初めは気のせいかと思っていたが、なまえまでそんなことを言い出すということはやはり


「それはお前たちの態度のせいだろう!」


それなのに相変わらずガイは空気を読めない。確かに俺もなまえもガイを軽くあしらっていたが、この空気の冷たさはそんなもんじゃないだろう。俺がまた反論しようかとしたそのとき、里内に轟音が鳴り響いた。俺たちの遥か先の方には白い煙が上がっている


「まさか…!」


なまえが言ってすぐ、その白い煙から橙色が見えてきて俺はその言葉の真意をつかんだ。なまえは九尾が、そう言いたかったのだ。それっきり固まったままのなまえの肩を俺は叩く。するとはっとしたように俺を見るなまえは心なしか青ざめて見えた


「…カカシくん。行くよ!」


それはつまり九尾を止めにいく、そういうことだろう。なまえの意思をくみ取った俺はそっと頷き、地面を蹴ろうとした


「早く!避難するんだ!」


後方からそんな叫び声が聞こえて、走り出そうとした俺もなまえも振り返った。その視線の先に誰がいるかなど微塵も気にせずになまえは食って掛かった


「どうしてです!?里が危ないっていうのに!」

「先代様からのご命令です」

「三代目さまから…?でも、」


なおも食って掛かろうとするなまえの腕を俺は引く。するとなまえはきりっと俺を睨んだ。その姿に少し怯んだが、今はそんな場合じゃない


「なまえ、気持ちはわかるけど、三代目様からの命令なら従わないと」


俺はなまえの目を真っ直ぐに見つめ言うと、睨んでいた瞳を伏せた。恐らく命令を聞く気になったのだろう。力なく垂れたなまえの腕を再び掴み直すと俺は、瞬身を使ってなまえごとその場を離れた




(俺は何があってもお前を守るから)









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