退院してからというもの、カカシくんはわたしになにかとつきまとっては、あれはするな、これも危ないなどとひどく口出しをしていた。なんとなく過保護にされすぎているような気がしたので、素直に伝えてみることにしたのだが、カカシくんはなぜか右目だけでもわかるような不機嫌そうな雰囲気を放った


「だってさ、あの時のこと思い出しちゃってね」

「…あのとき?」


あのときとは一体いつのことなのか。抽象的すぎてよくわからなかった。考え込むわたしに痺れをきらしたのか、カカシくんはため息をついた


「なまえたちが中忍に昇格したばかりの頃の長期任務のことだーよ。もしかして忘れたの?」


カカシくんに言われ、わたしの思考を総動員し過去の出来事を振り返る。そこで思い出した事件ともいえるあの任務。確かあのときからわたしはカカシくんを苦手だと思い込むようにしようと決めたのだった。もちろん、忘れていたわけではなく、蓋をしていただけだ。そこは勘違いしてほしくないものである


「まさか。でもよく言うわよね、カカシくん」

「ん?何がよ?」

「病室で悪態ついたよね、わたしに」


“すごく傷付いたんだから”そう付け加えたわたしにカカシくんは肩をすくめた。これは皮肉などではなく本当のことだ。あのとき、わたしは本当に傷付いた。いま思い出してちょっと胸が痛むくらいだ


「なまえも平手打ちしたよね、俺の頬に」

「…それは自業自得だと思うのだけれども」

「ま、そうかもねー。俺、素直じゃなかったから」


素直じゃなかったとは一体どういう意味なのだろう。あの言葉はある意味素直じゃなきゃ言えなかったと思うのだが。わたしは少しだけ首を傾げた


「今になっても分からないの?」


よくわからなかったわたしは控えめに頷いてみた。そんなわたしにカカシくんは再びため息をついた。なによそれ。どうしてため息をつかれなければならないのか


「簡単でしょ?好きな子に庇われて、もし自分の代わりに死んだらって思ったら悔しいに決まってるじゃない」

「…え」


一体なんだそれは。まったくの初耳というやつだ。それだとまるで、そのころからカカシくんはわたしを好きだったみたいじゃないか。考えて顔が熱くなるのを感じた


「本当に気が付かなかったの?今まで」

「か、カカシくんだって!気づいてくれなかったでしょう?」

「いーや?俺は平手打ちされた後のなまえの一言にもしかしてって思ってたよ」


なんだそれは。だったらはやく言ってくれてもよかったじゃないか。そう思って、言わせないようにしていたのは自分じゃないかと思い出してわたしは肩を落とした


「そんなに落ち込まなーいの。今はこうして想いが通じあったわけだしね」


頭を撫でながらそんな風に優しくささやいてくれるカカシくんに不覚にもときめいてしまった。ああもう、本当になんてわたしは馬鹿だったのだろうと後悔した


「…愛してる」


精一杯背伸びをしてのわたしからのキスにカカシくんは目を見開いて驚いていた。それもそのはず、普段のわたしは自分からこんなことはしないから。でもいまだけは特別。そんな気持ちでわたしはカカシくんに微笑んだ


「何それ反則でしょ…」


そう小さくもらすと、カカシくんはわたしにキスの雨を降らせてきたのだった




(俺も愛してるよ)(その言葉だけでもうなにも考えられなくなった)









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