そろそろ日が沈みかけるというとき、手頃な場所で野宿することにしたわたしたちは見張りの順番を決めた。ミナト先生は自分は隊長だからと言って一晩中一人で見張ると言い張ったけれど、それじゃいけないと思い、ならばせめてもう一人と順番を決めることになった。適当に決めた順番はリン、オビト、カカシくん、わたしの順だ。自分の番になるまでの間仮眠をとってもよいと言われたのでお言葉に甘えることにした。しかし目をつむったのはいいがなかなか眠れなかった。しばらく考え事をしてやっとうとうとし始めたころ、肩を叩かれた。少し驚いて目を開けるとカカシくんの姿があった


「交代」

「あ、うん」


無表情でそう言われ、眠りかけていた脳が一気に覚醒して、わたしは急いで寝袋から飛び起きた。すると入れ替わるようにカカシくんが先程までわたしが入っていた寝袋に入り目を閉じた


「あれ、」


どうしてわたしの寝袋にカカシくんが?寝袋は一人一つなのでカカシくんの分がないというのはあり得ないことだ。考えてもよくわからなかったわたしは“まあいっか”と呟きミナト先生のところへ向かった


「すみません、ミナト先生」

「大丈夫」


わたしはミナト先生のとなりに座ってただひたすら周りを見ていた。完全に無言ではあったが、気まずいという気持ちはまったくなかった。むしろ心地よいというか


「なまえは班のみんなのことどんな風に思ってる?」


そして見張りを始めて数分たった頃突然ミナト先生が言い出した。どうしてそんなことを聞くのだろうと疑問に思った。もしかして同じようなことをみんなにも聞いたのかな。そう考えてわたしはみんながなんて答えたのか気になったが、わたしはわたしの思うことを素直に言うことにした


「…わたしは。みんなはオビトのことをうちはの落ちこぼれだと言うけど、違うと思ってます。だってわたしからすれば充分なくらい強いですから」


そうなのだ。オビトはうちはだということだけで落ちこぼれ扱い。違う家系に生まれていたなら間違いなく天才の部類だろう。要するにうちはは頭が堅いということ


「でも残念なことにオビト自身はそれに気がついていない」


わたしは淡々と言葉をつなぐ。ミナト先生は黙って話を聞いてくれていた。それはとてもありがたいことだ。だからわたしは安心して話せる


「リンは班の中だけでなく、里にとっても、優秀な医療忍者になってくれると思います。わたしは彼女を頼りにしているし、尊敬もしているんです」


そう、わたしはどちらかといえば戦闘向きのチャクラ性質で、医療忍術には向かないから。だから医療忍術に長けているリンをとても尊敬している。ときどき彼女のようになりたい、そう思うこともある。けれども、わたしはわたし、そうやって幾度となく割りきってきたつもりだ


「もちろん、ミナト先生も尊敬してます。偉大なる師として。わたしも先生のようになることが夢なんです」


今日初めて口にした自分の夢。いつからかわたしはミナト先生のような忍になりたいと願っていた。ミナト先生のように強くて、里のみんなから信頼されるようなそんな人望のある忍に


「ん!頑張って俺の忍道を受け継いでほしいな。それになまえはみんなのことをよく分析してくれていて安心したよ」


応援してくれるミナト先生に素直に嬉しく思う。それにみんなのことをわかるのは当たり前だ。だってわたしは班のみんなが大切だから


「…んー、それじゃあカカシは?」


わたしは周りを見回すのをやめて、ミナト先生の方に勢いよく顔を向けた。つまり驚いたわけである。なにしろこんな聞かれ方をするとは思っていなかったのだから。けれども、逃げることはできない。答えなければ不自然なこと極まりないし、それこそカカシくんを意識していると言っているようなものじゃないか


「…か、カカシくん、は、」


どくどくといやな音をたてる心臓。血液の流れやチャクラの流れが感じとれるような気さえした。やっとの思いで声を発しはしたが、それから先が進まなかった


「ん?」


そんなわたしにミナト先生は気がついているのかそうでないのか。たぶん後者だろう。にこにことわたしの返答を待っていた。この状況ではやっぱり言わなければならないのだろう。なにも自分の恋愛的な感情を話せと言われているわけじゃなくて、ただ単にミナト先生はどう思っているか、それを問いただしているだけなのだからそんなに気を張る必要もないのだが、現実はなかなかに難しい


「…カカシくんは、お父さんのことがあるから」


やっとのことで発したのがこの言葉。ミナト先生もこの言葉が出るとは予想していなかったようで驚いたような声を出した


「知ってたの?」

「はい。だからカカシくんは仲間を大切にすることが怖いんだと思います」


カカシくんのお父さん、はたけサクモさん。サクモさんの行動はわたしは里の英雄だと思っているし、カカシくんだってそう思っているはず。それなのに、掟を破ってまで仲間を優先したサクモさんを他の忍たちが追いつめたりするから。サクモさんは自らこの世を去ってしまった


「本当はカカシくんもわたしたちと上手くやっていきたいと思ってくれていると信じてます。わたしだってカカシくんと仲良くしたい。でも拒絶されることが怖いから。一度でも拒絶されてしまえば、折れてしまう。だからわたしはカカシくんを救えない」


ああ、わたしはどうしてこんなに無力なの。わたしは弱虫だ。カカシくんのことを色々知っていて、でも自分が傷つくのが怖いから近づけないなんて。こんなわたしがカカシくんを好きでいていいはずがない


「そっか。なまえはカカシが好きなんだね」


そう呟いたミナト先生の声は、悲観しているわたしが馬鹿馬鹿しく思えるほどの優しい声だった


「きっとカカシにもなまえの気持ちが届くよ」


やっぱりミナト先生の声は優しくて。なぜかわたしは泣きそうになる。でもね、ミナト先生。わたしの気持ちがカカシくんに届く日はこない。だってわたしはそれを望まないから。わたしはカカシくんを救えないから、それなら嫌われていた方がまだましだから




(そんな風に思うのはただ逃げているだけですか)





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