朦朧とする意識の中、わたしの前に立ちはだかるカカシくんの背中越しに大蛇丸のにやついた顔が見える。カカシくんからは嫌って程の殺気を感じた。それがわたしに向けられているような感覚がして、つい身構えてしまう
「大蛇丸…!」
「いやね、怖い顔して殺気立たないで頂戴。そんなになまえが大事?」
「当たり前だ」
真っ直ぐ、偽りのないカカシくんの声色に、こんなときだというのにわたしの心臓は高鳴る。今更、こんな気持ちになったって遅いのに。どうせわたしはそう長くは持たない。こうして最期にカカシくんに会えただけで儲けものだ
「何だか萎えちゃったわ。此処は引いてあげる。また会いましょう。まあどうせなまえはもう長くはないだろうけど」
「黙れ!」
「じゃあね」
一言残すと大蛇丸はこの場から消えた。よかった、とりあえずカカシくんの身になにもなくて。そう思うと、今までやっとのことで立っていたわたしの脚は崩れ、地面に突っ伏した
「なまえ…!」
「か、カカシくん…、き、てく、れてあり、が、と」
「馬鹿、しゃべるな!」
カカシくんはわたしを抱き止め走り出すと、切羽詰まったような声を出す。カカシくんの瞳は今にも泣き出しそうだ。止めて、わたし、カカシくんにそんな顔をしてほしいわけじゃない
「わたしっ、ね、カカシ、くんに、言いた、いことが…」
自らの傷口に触れてみれば、どくどくと血の流れは止まること知らないことを悟って。このままだとわたしは助からない。だから、わたしの感情を話すのは今しかない。この状況で話すのはずるいかもしれない。でも、今話さなければきっと、来世まで後悔してしまうから
「わ、たし…カカ、シくん、のことっ、ずっ、と…す、き、だった、の」
やっとのことで言葉にすれば、なぜかカカシくんの瞳からは涙がこぼれた。その涙はわたしの頬に落ちる。ああ、泣かないで。泣かないでカカシくん。わたしは思うように動かない腕をあげ、カカシくんの涙を拭き取る
「でも、ね、わた、し、は、もう、死ぬ、か、ら…だ、から。わたし、の、ことはっ、忘れ、て…幸せ、になって」
「馬鹿な事言うな!俺は、俺は!俺だって、なまえのことす」
もう駄目だ。カカシくんの声さえ上手く聞き取れない。わたしももう、しゃべれない。最期までカカシくんの声、聞きたかったな。とうとうわたしは意識を手放した
(ずっと、ずっと、好きでした)
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