なんとなく目を開けると、そこは見知らぬ部屋だった。いや、正確には木の葉に帰ってきてから見たのは二度目だった
ああ、なんて悪夢。わたしはまだ夢のなかに違いない。うんきっとそう

軽く現実逃避しながら、頬をつまんでみるとちゃんと感覚があった。やっぱりだ。ここは間違いなくカカシくんの部屋


「…どうしてこんなことに」
 

なんて今更そんなことをつぶやいても状況が変わるわけもなく、ソファーにはカカシくんが眠っていた。時計を確認すると午前6時。そりゃまだ眠ってるか

わたしは気配を消して忍び足でカカシくんに歩み寄る。こうでもしないときっとカカシくんにはわたしの気配がばれてしまうから

間近で見る彼の顔はやっぱり綺麗なもので、いつもは重力に逆らっている透き通る銀色の髪も今は本来のあるべき位置にちゃんと流れている。閉じられた左目の瞼に縦に入る傷痕は、あの時のことを鮮明に思い出させる。初めて、初めて仲間を失ったあの時

わたしは無意識にその傷痕に触れる


「…切ない」


みんなを失ってから十数年も経つというのに、わたしはそれぞれの時の記憶や感情が消えることはない。まるでこの傷痕みたいに。何度も何度も仲間を失うなんてもう嫌だと思った。それはもちろん今も変わらない


「カカシくんは、いなくならないで」


なんて。とても起きている時の本人には言えたものじゃないけど

少し名残惜しかったが、傷痕を触れていた手を離そうとしたとき手首を掴まれた。予想外の出来事にわたしの身体はびくりと跳ねる
恐る恐るカカシくんの顔を見てみれば、先程まで閉じられていた瞳が今度は開いていた

何か言わなくては。頭ではそう思うものの、上手く言葉になって出てこない。どうしようかと静かに動揺するわたしをよそにカカシくんはゆっくりと口を開いた


「俺はいなくならないよ」


ほんの一瞬、なにを言われたのかわからなかったが、その意味を理解したとき、わたしの胸に衝撃が走った


「だからお前もいなくならないって約束してくれ」


わたしは考える間もなく無言で頷く。悲しそうな寂しそうな、なんとも言えない表情で言うカカシくんを見つめるわたしは、ずっとこの人と一緒にいたいとさえ思った






(わたし、きっとカカシくんが好きだ)






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