あのあと、風紀委員の仕事から帰ってきた黒子に根掘り葉掘りいろいろ聞かれて「じゃあまたあとでね」なんて言いながら若干逃げるようにして美琴たちの部屋を出たわたしは、そのままシャワーに直行してベッドにダイブしたけど、美琴に言われたことをいちいち思い出してしまって一睡も出来ずに朝を迎えてしまった(いやでも少しは眠ったけど)(それでもうまく眠れなかったのは本当である)

少しだけ重たい身体を動かして身支度を整える。幸い学校はお休みなので、多少の睡眠不足は問題ないはず。いつも通りに制服を着て朝食を摂るために食堂に行くと、そこにはすでに美琴と黒子がいた


「あ、なまえ。おはよう」

「なまえお姉さまー!おはようございますの!」

「おはよう、ふたりとも」


黒子は相変わらずな様子でわたしに抱きついてくる。なんだか昨日の夜そっけない態度をとってしまったことに若干の罪悪感。けれども、当の本人である黒子や美琴は気にしている素振りをまったく見せないのでちょっと安心した

ふと昨夜、美琴に言われたことをまたしても頭のなかで反芻して、どきっと心臓が跳ねあがった。考えれば考えるほど本当のことが知りたいと思ってしまう

たとえそれが自分が傷つく答えだとしても

ついこの間までは、友達だと少しでも彼に思ってもらえれば満足だったのにあわよくば、なんてどんどん貪欲になってゆくわたしに嫌気がさす


「…お姉さま?」

「なまえ?どうしたのよ、全然食べてないじゃない」


ふたりに声をかけられたことで我にかえる。わたしは美琴をみつめて、くすぶっている感情をどうしたらいいのか必死に考えた。でもそんなのは考えるまでもなかったのも事実で


「わたし、」

「え?」

「わたし、ちょっと行ってくる!黒子、空間移動コピーさせて!」

「行くってどこに!?って、ちょ!なまえ!?」


美琴はまだなにか言っていたけど、わたしはそんなのはお構いなしに黒子に触れると能力をコピーさせていただいた。そのまますぐに空間移動する。行き先はただひとつ

目的地に空間移動したわたしは、いつもと同じようにソファに寝転がる彼の名前を呼んだ


「一方通行!」


一方通行はほんの一瞬だけ驚いた表情をみせたあと、めんどくさそうにため息をついた


「…ったく、急になンなンですかァ」

「今日こそ、一方通行の能力をコピーさせて頂きます!前に宣言したでしょ?」

「人ンちに勝手にテレポートしてきたと思ったら、なにぬかしてンですかァ。なまえチャンよォ」


ってちょっと待ってわたし。こんなことを言いに来たんじゃないでしょう。しっかりしてよわたし。一方通行がこんな反応になってしまうのも大いにうなずける

でも突然話題変更するのも不自然だと思ったわたしは仕方なく続けることにした


「一度くらいいいじゃない!」

「うるせェ。変なこと企ンでねェでさっさと帰りやがれ」

「えー、せっかくコーヒー買ってきたのに?」


わたしはここに来る前にちゃっかり仕入れた缶コーヒーを見せつけながら、落ち込んだふりをした


「誰も頼ンじゃいねェ」

「んー、でもどちらかといえばこれは能力をコピーさせて頂くので見返りというか」


自分でもよくこんな嘘をぽんぽんと言えるものだと少し感心する


「はァ。誰もンなこと言っちゃいねェよ」

「でもなんだかんだ言いながらもわたしからの好意が嬉しいんですよね?」


わたしの手からコーヒーを奪う一方通行を見つめつつ、いましかないと言わんばかりにからかうように言う。これはもう遠回しの告白

しかし、一方通行にはあまり意味が通じなかったようで、彼は眉間にしわをよせ、ちょっとだけ不機嫌そうな顔をした


「…くっだらねェ」

「まさか気がついてないわけないよね?それにわたし知ってるの。少なからず一方通行もわたしに好意を持ってくれてること」


さらっと言っているようにみえても、実は心臓は爆発寸前だ。だってこれは大きな賭けのようなものだから

急に押し黙る一方通行を目の前にもっと鼓動がはやくなった。いつまで経っても言葉をつむごうとしない一方通行。その微妙な雰囲気にわたしはいよいよ耐えられなくなる


「えーと。前置きはこのくらいにしまして。そろそろコピーさせてね」


わたしは一方通行に向かってテレポートするため、演算を開始する

それと同時に反射に備えての準備もする(この調子ならどうせ跳ね返されるに決まってる)(現にいままでがそうだった)

…が、いつまで経ってもその反射が訪れることはなく


わたしはあっさりと一方通行に抱き付くことになった


「え、」

「ほら、コピーしたいンじゃなかったのかァ?」

「そ、それはそう、だけど…」


なんで、一方通行の腕がわたしの背中に回ってるの?

無意識に離れようとするが、力が込められているため逃げられない


「コピーしないンですかァ」


不敵に笑う一方通行の顔が妙に近いのは気のせい?
ねえ、誰か気のせいだと言ってよ!


「そ、そそれじゃあ、え遠慮なく」

「これがお望みだったンだろォ?なまえチャンはァ。もっと嬉しそうにしたらどうですかァ」

「えっと、う嬉しいけど…これは予想外っていうか」


一向に離れようとしない一方通行に対して、わたしは赤面するしかなくて


「悪ィな、なまえチャンよォ。生憎俺もこれが望みだったでね」




(不覚にもきゅん死)
(好きならば好きだと言おう!)







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