まったく、本当に最近のわたしはなにをやっているのだろう
逃げたって意味ないじゃないか

思考は負の連鎖ばかりでどうしようもない
本来ならばちゃんと当麻さんに謝らなければならないのに

わたしってば、謝らなきゃいけない人がいっぱいいるな、とまた自嘲気味になる


「こんなんじゃ、いけないのに」


わたしはこんなことしてる場合じゃないのに
助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ!


そんな風に気持ちばかり焦りながら、なにか出来ることはないかと今日もひたすら街を歩く


「あ、なまえじゃねえか!」

「とう、まさん…、えーと、昨日はごめんなさい」

「別に気にしちゃいないぜ、上条さんは!」


わたしはあまりの申し訳なさに頭を下げるが、当麻さんは昨日のことをさして気にしていないようだった

それはわたしにとってとても有難いことだ


「あ、でも御坂妹は心配してたな」

「ミサカが?」

「おっと、噂をすれば御坂妹!一応あいつにも謝ってきたらどうだ?」


当麻さんの目線を追うと、なにやら段ボールの前にしゃがみこむミサカの姿があった


「ミサカ!昨日はごめんね」

「なんのことでしょうか?と、ミサカは振り向きざまに問いかけます」

「えーと、急にいなくなっちゃったから…」


ふとミサカの前の段ボールを覗くと、そこには黒い子猫がいた


「そのことでしたか。しかし気に病むことはありません。と、ミサカはなまえを慰めます」

「…そっか、ありがとう」


ふと当麻さんの方に目を向けてみると、微笑ましそうな表情をしていた


「そのパン猫にやるんだろ?遠慮せずにやればいいじゃん」


当麻さんは、パン片手に固まったままのミサカに見かねたのかそう言った


「…不可能です。ミサカがこの猫に餌を与えることは不可能でしょう。と、結論づけます。ミサカには致命的な欠陥がありますから」


わたしはミサカの欠陥という例えは嫌いだ
だってそれじゃあまるで、ミサカは自分自身をものだと認識しているみたいじゃないか
わたしはそんなの許せない


「欠陥って…嫌な言い方すんなよ」


それは少なからず当麻さんもだったようで、やんわりとミサカに注意を促した


「…ミサカは常に微弱な磁場を形成してるんだよね、たしか」

「はい、人体には感知出来ない程度ですが…他の動物には影響があるようです」

「ふーん、つまり御坂妹は磁場のせいで動物に嫌われやすいってことか?」


そんな当麻さんの言葉にミサカは僅かながらも顔を歪める

いつも無表情なのに、たまにこういう人間味のある表情をされるとわたしはとても悲しい気持ちになる
きっと妹達は自分達の感情を常に隠して生きているのだろう(それも自分は実験材料だというおもいからだ)


「避けられているだけです。と、ミサカは訂正を求めます」


こんな台詞も、本当は普通に暮らしたいだけなのに、そう言われているような気になってしまう
彼女達は自分に言い聞かせながらも、納得出来ないのだろう


「だから、餌はあなたが与えなさい。と、ミサカは促します」

「お、俺が?…結局このパターンかよ!…でもまあ、一匹も二匹も同じか」

「え、ということは…その子は当麻さんが?」


わたしが問いかけると当麻さんは仕方ないというように頷いた
その様子をみて、ミサカも心なしか嬉しそうだった


「よかったね、黒猫ちゃん!」


そっと黒猫の頭を撫でてみると、くすぐったそうに目を細めた


「あ、ちょっと本屋に寄ってくわ。うちの同居人に猫の飼い方の正しい知識を仕入れてやらねば」

「それでしたら、わたしとミサカはここで待ってますね」

「おう。じゃあ御坂妹、こいつを頼む」


当麻さんは黒猫をミサカに手渡そうとするが、当の本人はどうやら渋っている様子だった


「…承諾しかねます。先刻申し上げた通り、ミサカが猫に触れることは、」

「パース!」


そんなミサカに当麻さんは痺れを切らしたのか、あろうことか黒猫を投げてよこした


「普通に触れんじゃねーか!」


ミサカがしっかり受け止めたのを見届けると、当麻さんは本屋の中に入っていった


「…はあ。と、ミサカはため息をつきます」








(でも満更でもないよね、ミサカ)
(彼女が少しだけ笑ったような気がした)



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