自来也先生は渦の国までの道程を記した地図をわたしたちに見せた。それを目にしたとき、わたしたちはこれからBランク任務をやるんだといよいよ本当の意味で自覚した。

もしなにかが起きたとしてもわたしがみんなを守る。そんな思いで地図を見つめた。わたしたちに地図を見せ終わると自来也先生は、ベストのポケットへとしまう。そこからわたしたちはただひたすらに無言で歩き続けた。

自来也先生から会話をするなとかそういう類いのことは特に言われていなかったが、Bランクという、普通下忍では任されようもない任務ランクに緊張していたのだ。おそらくそれはわたしだけでなく、ミナトやチヒロもそうだろう。けれども、その沈黙が痛いというわけではない。どちらかと言えば、辺りに気を配ることに集中できるので助かるという気持ちの方が大きかった。

「そんなに肩に力を入れて歩かれては意味がないんだが」

突然振り返り呆れたように言う自来也先生を目の前にわたしは、なんと反応すればよいのやらわからず瞬きするしかなかった。

「特になまえ。お前は他の二人より、ちっとばかり緊張しとるようだな」

「…はい」

「何もそんな顔をすることもなかろう?緊張感というのはどの場面でも必要なもんだのォ。ただ、紅一点のお前が笑ってないと華やかさに欠けるからの。気軽にしたらいい」

なぜだか自来也先生の言葉にほっとした。わたしは出発する前に磨いた額あてに触れ、そっと木の葉マークを指でなぞり、先生に言われたとおり笑顔で頷いてみせた。確かに緊張しすぎて肩に力が入ってしまうと、普段より体力の消耗が早いから。それに必ずしも敵が襲撃してくるとも限らないのだから、それこそ体力の無駄遣いだ。自来也先生の言葉を皮切りにチヒロも口を開き始めた。

「先生!届ける巻物の中身は何?」

「おお、それはいくらチヒロとは言えども教えることは出来んのォ。ここで教えてしまっては機密文書の意味がまるでない!」

「なんだよそれー!」

からかうように言う自来也先生と少し不貞腐れたようなチヒロのやりとりに自然と笑いが込み上げてきてしまって、わたしは声を出して笑った。それにつられたようにミナトも笑った。ついさっきまでの緊張など今はもう微塵も存在していなかった。

(まるで最初からなかったかのように)



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