それからややしばらくの間があってチヒロや自来也先生がやってきた。時間までまだずいぶんあったが、せっかく全員が集まったからという理由で予定より早く出発することになった。わたしはミナトへの恋愛感情に浸っている暇もいまはないと表情を引き締めて、真剣な面持ちで臨むことにした。

「渦の国まで結構な道程だがお前ら大丈夫か?」

自来也先生の突然の問いにわたしたち全員は無言でうなずいた。なぜ突然こんな断りをいれるのだろうと少なからず思ったのも事実で。けれども、自来也先生の言動のすべてに意味はある、そう思っているわたしは特になにも聞かなかった。

「お前らが優秀だとは言えどもまだ下忍。まだあまりスタミナもないだろう。それを考慮して歩きで移動することとする。無駄な体力を使いたくないからのォ」

無駄な体力、それはつまりなんらかの戦闘になるような可能性があるということなのだろうと理解した。遠回しな自来也先生の言葉により一層身を引き締めなければならないな、と思った。それはミナトやチヒロもそうだったようで、ふたりとも真剣な顔つきだった。

「わたしこの班でよかった」

心に留めておくつもりだったのに、なぜかわたしの口からはこんな言葉が出てしまった。自分でも少し驚き、はっとした。そのわたしの一連の流れを見ていたミナトとチヒロはわたし以上に驚いていた。自来也先生にいたっては無表情で、まずかったかなと少し反省した。

「ちょ、そんな死亡フラグみたいなこと言うなよ!」

「え?し、死亡フラグって…。全然そういう意味じゃなくて、 」

わたしとしては、自来也先生がわたしたちの師で、ミナトとチヒロがチームメイトだから安心だよという意味だったのだが。どうやらそれはチヒロに伝わっていなかったようで。でもそれって結果的に死亡フラグというやつなのか?考え込んで余計にわからなくなった。

「んー、なまえはこの班だからどんな任務でも大丈夫って言いたかったんじゃないかな。俺たちを信頼してくれてる証拠だよ」

そんなミナトの言葉に今度はわたしが盛大に驚く番であった。どうしてミナトはこうも的確にわたしの言いたいことや、考えていることをわかってくれるのだろう。アカデミーの頃も、下忍になった今も、そしてこれからもずっと、ミナトはわたしの一番の理解者になってくれるだろう。そういう気がした。ありがとう、そんな意味を込めて若干の照れ笑いをすれば、ミナトはこれでもかっていう程のまぶしい笑顔をくれた。

「ミナト、なまえ。お前ら、もしや、…いや、そんな野暮なこと問うまでもないやもしれんのォ」

「?」

なにやら楽しそうに言う自来也先生の言葉の真意が全くわからなかったわたしもミナトも首を傾げるばかりであった。けれども、チヒロのみはその真意がわかったのか少しだけ怪訝そうな表情をしていた。その様子にわたしたちは更に首を傾げた。

「さて、そろそろ出発するかのォ。お前ら、準備はよいか?」

「…はい!」

先ほどまでの軽い調子とはうってかわって真剣に言う自来也先生にわたしたち全員もつられて真剣な顔つきで返事をした。

(願わくは何事もありませんよう)



prev - next

back