久しぶりにつないだミナトの手から温かい体温を感じてなんだかむずかゆくなった。でもいやじゃないし、むしろ心地よいから離そうとも思わない。この感じはいったいなんなのか、いまのわたしにはまだよくわからない。たくさんの人混みのなかをぬって歩いて、人通りがすこし途切れたところで立ち止まってミナトはわたしを振り返った。
「どの屋台に行きたい?」
「えーと…、全部!」
「ん!花火までだいぶ時間もあるし、片っ端から回ろう!」
「うん、行こ!」
今度はわたしがミナトの手をぐんぐん引っ張って、最初に来たのは様々なお面が売っている屋台。まずはお祭りの雰囲気を味わないと!せっかく浴衣なんて着てるんだから。ちょっと苦笑い気味のミナトを置いてきぼりにして、なかでも気に入った狐のお面を指さした。
「これ、ください!」
「はいよ!」
屋台のおじさんにお金を払いお面を受けとると、すぐさま顔につける。すこし狭くなった視界に自然とたのしい気分になってきたわたしは、お面ごしにミナトを見つめた。
「ね、暗部みたいでしょ?」
「本当だ!…ねえ、なまえは将来暗部に入りたい?」
おちゃらけていうわたしにミナトも笑ったあと、急に真剣な表情でわたしの手を握り問いかけてくる。その質問の意味が、いや、どうしていまミナトがそんな質問をするのかがわからずわたしはお面を外して首をかしげる。
「俺は、」
「?」
「俺は、なまえには、…ん、ごめん!なんでもない!」
「え?え?」
なにかを言いかけてやめたミナトに戸惑いをかくせないわたしはただあたふたとするばかりで。ミナトはというと、そんなわたしなどさして気にしていないようで再び手をぎゅっとすると引っ張って歩きだした。
「んー、お腹すいた!俺、たこ焼き食べたいな」
そう言った笑顔がすこしぎこちなく感じて違和感を覚えたけれども、なんとなくいまは聞くべきでないような気がしてわたしもなにも言わないことにした。もし、そんなにも重要なことならばまた今度にでも言ってくれるはず。きっと。そう信じて。
「わたしも!」
それからわたしたちは普段の他愛ない話をしながら、たこ焼きや焼きそば、いか焼き、そしてわたしのリクエストで林檎飴と綿飴を買って、花火がよく見えるというミナトおすすめの絶好の場所にやってきた。
「わ、すごい星空!」
「でしょ?」
そこは周りが木々に囲まれた草原で、まさに満天の空であった。いまですらこんなに感動的なのだから、花火があがったらもっともっと感動的なんだろうな、とわくわくした。ミナトはいったいいつの間にこんな素敵な場所を見つけたのだろう。
「この間、気分転換に新しい修業場所探してたら偶然にここを見つけたんだ」
まさか心を読まれてしまったのだろうかと一瞬びくびくしたけれど、わたしを隣に座るように促すような仕草のミナトを見ている限りそうではなさそうで安心した。
「そうだったんだ。素敵な場所だね、ここ」
「ん!喜んでくれたみたいでよかった」
ふたりで笑いあっていると、ふいに花火があがった。あまりにも突然なことで驚いたわたしの身体はびくりと跳ねた。そんなわたしをしっかりと見ていたらしいミナトは笑いをこらえていた。
「もう!わたしのことより花火!」
「だってなまえの方が…だから」
「え?なに?」
ミナトの言葉はちょうど花火とかぶってしまってよく聞き取れなくて、聞き返したけれど、ミナトはただ笑っていただけだった。
(ふたりの手は自然とつながれたままだった)
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