結構な勇気を出してなまえを夏祭りに誘ってみれば、あっさり了承されたため少し拍子抜けしたのがほんの数時間前。そして約束の場所に着いたのが数分前。

しかし、そこに彼女はまだ来ていなかった。それもそのはず、今はまだ待ち合わせの時間より三十分も早いのだから。なぜそんなに早く来てしまったかというと、ただ単に緊張していたせいで準備が捗りすぎてしまったからだ。ほぼ毎日と言っても過言ではない程になまえとは会ってはいるが、これはまた別の話だ。だってこれはいわゆるデートというものなのだから。緊張しない方がどうかしてると思う。

ちなみに念のために言っておくが俺はなまえを好きだったりする。当の本人は全く気が付いてないみたいだけど。というかそれって眼中にないってやつなのかな?

「ごめんね、ミナト。遅くなっちゃって」

後方から声をかけられたので振り返ってみると、俺は固まってしまった。だって浴衣を着たなまえが立っていたから。普段は下ろしている髪も今はアップにされていていつもより何倍も大人びてみえた。こんなのは不意打ちだ。しばらく動けないでいるとなまえは俺の顔を覗き込んできた。そんな小さな行動にさえいちいち反応を示す心臓。これではとても持ちそうにない。

「…ミナト?」

彼女はそんな俺の気持ちに当然気がついていないようで心配そうに俺を見ている。不審に思われてしまう前に早く何か言わなければ。

「綺麗だね」

って俺は一体何を言っているんだ。言いたいのはこういうことじゃなくて。いや、もちろん思ったけど。でもそうじゃなくて。こういうことはもっとちゃんとそういう関係になってからいう言葉で。俺の思考回路は完全に混乱していた。

「え、?…あ、ありがとう」

なんとか思考回路を落ち着かせ、なまえの方を見るとうっすら頬が赤く染まっているようにみえた。つまりこれは、喜んでくれたということでよいのだろうか。

「それじゃあ、行こうか」

俺が言えば満面の笑みで頷くなまえ。お祭りはまだまだこれから。せっかくなまえと一緒に来れたのだから楽しまないと。そんな気持ちで俺は大胆になまえの手を掴んで歩き始めた。だってこんな人混みじゃはぐれてしまうから。なんて都合のいい言い訳をする。そりゃあ幼なじみなわけだし、もっと小さな頃は普通に手を繋いでいたけど、今は状況が違うわけで。

(だから、今日だけは許してね)



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