どれほどの年月が経ったのだろう。まったく彼が帰ってくる気配もなく、ただただ毎日が過ぎていった。

それでもさみしいとばかりも言っているわけにはいかないと気を引き締め、任務をこなしたり修業したり、新術の開発に熱を入れてみたりと一日が二十四時間では足りないとおもうほどだった。

そんなわたしもついに暗部入りを果たし、今日、単独での長期任務を終えやっと木の葉に戻ることができた。門をくぐるとそこにはなぜか仁王立ちした綱手先生がいた。

一体こんなところでどうしたのだろう。もしかして、任務に出かけたダンさんでも待っているのかな。綱手先生も案外乙女な部分があるんだなー、なんて思っていると目があってしまった。

まさかいまわたしが考えていたことを読まれてしまったのではないかと少し焦り、思わず謝罪の言葉をつむごうとしたが、綱手先生からは思わぬ言葉が飛び出した。

「なまえ!やっと戻ったか。出掛けるぞ、ついてこい!」

綱手先生はわたしに音もなく詰め寄るとがっちりと腕をつかみ、引いた。まったく予想していなかったため、わたしの身体はいとも簡単に引き寄せられてしまう。

「つ、綱手先生!出掛けるって一体どこに?!」

「ついてくれば分かる!」

「え、でもわたし、三代目に報告書を提出しないと…!」

「そんなのは後で構わん!私から言っておく」

「え、え…?!」

渋っているわたしなど眼中にないというように綱手先生はなおも腕を強く引っ張ってくる。こんなときは大抵もうなにを言っても無駄だということをだいぶ前に学んだので、おとなしくついていくことにする。

その前にシャワーを浴びるのと着替えることをなんとか、綱手先生に許してもらえたわたしはずいぶんな短時間でそれらを済ませた。そしてやってきた場所は居酒屋。

「えーと?」

つまり。綱手先生は食事に、というか飲みにきたかった、そういうことだろうか。でもなぜその相手がわたし?そんな疑問を込めての言葉であったが、綱手先生には伝わっていないようで、意気揚々と店内に入りカウンターの椅子に腰掛けた。

仕方ないのでわたしもそれに倣う。そして綱手先生は麦酒を頼み、わたしは烏龍茶を頼んだ。綱手先生は大好きだけれども、お酒を飲んだときの綱手先生は少し苦手だ。だってなにかにつけてはわたしをからかってくるから。

わたしは出された烏龍茶を一気飲みし、グラスをおく。一瞬視界が揺らいだ気がしたが、きっとそれは連日の厳しい任務のせいで疲れがたまっているだけなのだとおもった。

「どうしてわたしなんです?」

「それはだな、お前でなければならないそれ相応の理由がある」

正直意味がわからなかった。それよりも、わたしはその理由とやらを知りたかったのだが、どうやら綱手先生は話してくれる気などないらしい。その証拠に綱手先生は、なに食わぬ顔であっという間に一杯目の麦酒を飲み終え二杯目を注文していた。

「そんなことより。お前はどうなんだ?」

「どうってなにがです?」

「ミナトのことだよ」

「…ミナト…?」

なぜ突然ミナトの話題が出るのだろう。その真意を探ろうと綱手先生の横顔を見つめてみるものの、いっこうに頭が回る気配がない。それどころか、頭の中が妙な感じさえする。なんだろうこれ。考えてもやはりわからずに、わたしはいつの間にか出されていた追加の烏龍茶を一口飲んだ。

「あれから何年になった?まだ帰ってくる様子もないし、いい加減待つのはやめたらどうだ?」

ひどく胸をえぐられたような気がした。やめたらどうだ?待つのを?まさか。どうして?確かにミナトとわたしは約束した。

ミナトは自分に待っていてほしいなんて言う資格はないと言ったけれど、わたしは待つなと言われても待っているから、そう言った。

そうしたらミナトも本当は俺が帰るまで待っていてほしい、そう言ってくれた。それはミナトもわたしと同じ気持ちだから、そう思っていたのだけれど。綱手先生からみればそれは約束でもなんでもないということなのだろうか。

「…やめません。これから先、あと何年、たとえ何十年ミナトが帰ってこなくても待ち続けます。……わたしは、ミナトを愛しているから」

「ほう?まったく、のろけるんじゃないよ。こっちが恥ずかしい。な?ミナト」

綱手先生がわたしの背後あたりに視線を向け言った言葉の意味を理解しようとして、急激に意識が遠退き、目の前が真っ暗になったのであった。

(つまるところ、お酒を飲まされたのだわたしは)



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