それからはまた忙しい日々が続いて、ミナトとは会えることがなく毎日が過ぎて行った。任務から帰ってきては、彼にもらったクナイを見つめて、ため息をつき、帰ってきてはクナイを見つめてため息をつきの繰り返しであった。
本日もその予定なのだろうと思いながら、夜明けと同時に任務に就き、完了したのがお昼を少し過ぎたところで、長引いてしまったことも相まって余計に憂鬱になった。
けれども、次の任務までは結構な時間もあったので、昼食でも摂ろうかと定食屋の暖簾をくぐると、そこにはチームメイトの姿があった。
「チヒロ。久しぶり!」
「おー、なまえ!奇遇だな。お前も今から飯か」
「そう。やっとさっき任務が終わってね」
チヒロのとなりの席に座るとわたしは、早々にメニュー表を見てなにを食べようかと考えをめぐらせる。焼き魚定食にしょうが焼き定食。あ、オムライスもある。どれにしようかな。ひとり悩むわたしをチヒロは横目で一瞥すると、口を開いた。
「なあ、お前、ミナトのこと聞いてんの? 」
「…ミナトのこと?」
「あー、だよな。やっぱり」
チヒロはなぜだか頭を抱えるとテーブルに顔を突っ伏した。ミナトのこととは一体なんだろう。少なからず感じる負の雰囲気になんとなくいい話ではないのだろうと察した。まさかミナトに恋人ができた、とか?考えてそんなのあってほしくないとすぐに考えを打ち消す。
「あいつ、修業のためにしばらく里を出て旅をするんだと。自来也先生も一緒にな。確か出発は今日の午後」
「…なにそれ。わたしなにも知らない聞いてない!」
頭の中は程よく混乱を起こしていた。修業する?里を出て?ということはつまり。しばらくは会えないということ。このままわたしの気持ちを伝えず、一生会えなくなってしまう可能性だってある。そんなの、そんなの。
「…わたし、行ってくる。ありがとうチヒロ」
チヒロの返事を待たずにわたしは定食屋を出た。こんなときに限ってチャクラ切れのわたしはただひたすら走るしかない。もし、間に合わなかったら。そう思うとより動悸が激しくなり、冷や汗まで出てくる始末。出発は今日の午後だとチヒロは言っていた。だとしたらまだ間に合うはず。全力疾走のおかげか、門はもうすぐそこだ。
「ミナト…!」
わたしはいままさに門を出ようとするミナトを見つけ、叫ぶ。となりにはやはり自来也先生の姿があった。よかったどうやら間に合ったようである。きっとチヒロに聞かされなければ、ミナトが修業に出ることなど知らずに離れることになっていただろう。
「…なまえ」
「なんで、なんで!教えてくれなかったの?!」
問い詰めてみれば、途端に困ったような表情をするミナト。なにそれ。わたしには教えたくなかったってこと?幼なじみなのに仲間なのに。まさかそう思っていたのはわたしだけ?わたしはこんなにミナトのこと、大好き、なのに。
「ごめん。でも。…俺は、俺にはなまえに待っていてなんて言える資格がないから」
待っていてと言える資格がないというのはつまり。もし、わたしの解釈が間違っていたらどうしよう。けれども、そのときはそのとき。
「そんなの…、ミナトが待つなって言ってもわたしは待ってる。ずっとずっとミナトのこと待ってる」
「!」
「だってわたしはミナトのことをす、」
「今は、今はまだ言わないで」
ミナトは自らの人差し指をわたしの口元におき、言葉を制した。驚いたわたしはそのまま言葉が引っ込んでしまう。もしかして拒絶された?けれどもミナトは「まだ言わないで」とそう言った。それがなにを意味するのか。
「その言葉を聞いたら俺は、行きたくなくなってしまう。だからなまえ。待っていて。さっきは待っていてなんて言える資格がないと言ったけど、本当は待っていてほしい」
わたしはそっとうなずく。これはもはや勘違いなどではない。きっとたぶん、ミナトもわたしと同じ気持ちでいてくれている。そのことが嬉しくて、でもいまは離れなくてはいけなくて。いろんな思いが交錯してわたしの瞳からは涙が溢れた。
「泣かないで。必ず帰ってくるから」
「…ミナト」
わたしの頬に手をあて、親指で涙を拭き取るミナトの瞳が優しすぎて余計に涙が溢れる。泣いてはいけない、そう思えば思うほど涙は頬を伝っていった。でもミナトが修業に出てしまうのは変えられない事実。わたしはそれを受け入れなければならない。そう思えば少しは涙が止まったような気がした。
「…ミナト、」
わたしはポーチのなかを探ると、あらかじめ用意していたものを取りだし、ミナトの方へと突きだした。それはラピスラズリという石を使ってわたしが作ったネックレスであった。蒼を基調としたなかにときどき黄色が混ざるこの石はどこかミナトを彷彿させて、一目見たときからこれを御守りとして渡そうと考えていた。それがまさかこんなかたちで渡すことになろうとは夢にも思わなかったけれど。
「ん、これは…?」
「御守り。わたし待ってる。だからどうか無事で帰ってきてね」
「ん、ありがとう。大切にするよ。…いってきます」
「いってらっしゃい…!」
(その背中が見えなくなるまで見つめた)
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