中忍になったわたしたちは、自来也班での任務をめったにすることもなくそれぞれが忙しい毎日を送っていた。任務が一緒になることはなかったものの、街で偶然あったりすれ違ったりということが多々あったのでまったくの疎遠というわけでもなかった。

しかし、なぜかミナトだけとはろくに会うことができず、もどかしい日々。いくら忍だとはいえ、わたしも女なのだから好きな人に会いたいというのは当然のこと。それに最近ではミナトはくの一から絶大な人気を誇っているのだから余計だ。

本日は久しぶりの非番だというのに、驚くほどなにもする気持ちが起きなかった。さて、どうしたものかと考えていたとき、突然玄関の扉が叩かれた。それがあまりにも突然なことだったので、わたしの身体はびくりと跳ね、警戒した。

「なまえ?いる?」

ややしばらくして扉の外から慣れ親しんだ、けれども久しく聞いていなかった彼の声がし、またしても身体がびくりとした。

「み、ミナト?!どうしたの?」

少し、いやかなり慌てながら玄関の扉を開ける。するとそこにはいつもの忍服とは違う私服に身を包んだミナトが立っていた。これまた予想外のことで、わたしはどきっとした。だってかっこよすぎる。

「ん、なまえも非番だって聞いたから」

「ということはミナトも非番なの?」

「ん、そうだよ」

非番の日に訪ねてきてくれるなんて、それだけでわたしは舞い上がってしまいそうだ。それと同時に下手な服を着ていなくてよかったと心からおもった。

「これから一緒に買い物に行かない?」

「行く!でもちょっと待ってて!」

まさかのお誘いを断るわけもなく、わたしは即答で了承すると非番の日用の鞄をつかむと急いで部屋を出た。

「おまたせ!」

「ん!そんなに急がなくてもよかったのに」

せっかくのお誘いで、ましてや好きな人からとあれば急がないはずがない。だって少しでも長く一緒にいたいから。なんていうのは本人には口がさけても言えないけれども。わたしは曖昧に微笑んだ。

「どこに行くの?」

「んー、それじゃあ、とりあえずは忍具屋に行ってもいいかな?頼んでおいたものが出来てるはずだから。そのあとはなまえの好きなところを見よう!」

「うん、了解!」

あいにく今日は手をつなぐということがなく少しだけ残念に思いながらミナトの隣を歩いた。恋というのは恐ろしく、どんどん欲張りになってゆく。本来ならばこうやって隣を歩けるだけで満足しなければならないのに。そしてやけに女性からの視線が痛い。そんなに見られる意味がわからない。本当は嘘。きっとミナトに好意をよせている女性たちがその隣を歩くわたしは一体何者なのかと探っているのだ。

「でも忍具屋になんて誘ってよかったのかな」

「もちろん。ちょうどわたしも見たいものがあったの」

「本当に?それならいいんだけど…」

本当ですとも。ミナトと一緒ならどこでも大歓迎だ。きっとミナトと一緒ならどこでもたのしいはずだから。というのはやっぱり本人には言えないけれども。だってそんなこと言ったら、告白しているようなものじゃない。

そしてあっという間に忍具屋についてしまって中へと入る。するとミナトは「好きなもの見てて」と言い残し、店主のいるカウンターへと行ってしまった。仕方なくわたしは起爆札や兵糧丸が置いてあるあたりをうろうろする。でもどれもまだ必要ないし、なんて考えながらひたすら見てまわる。

「ミナトまだかな…」

思わず独り言がもれてしまう。もしかして聞こえてしまったのではないかとカウンターの方に視線を向けるが、あちらの様子はなんら変わりがないようで、ほっと胸をなでおろした。

まだまだ彼の用事が終わりそうにないことを察したわたしは再び忍具がならぶ棚に目を向けた。そしてそろそろ飽きてきたころ。ようやくミナトがこちらにやってきた。

「ごめん、待たせちゃって」

「大丈夫!」

忍具屋をあとにし、わたしたちふたりは連れ立って街を歩いた。ときどき気になるお店を見つけては中に入り、他愛もない話をしながらウインドウショッピングを楽しんだ。こんなにも楽しいと思ったのは久しぶりで、ずっとミナトとこんな風に歩いていたいとさえ思った。

だんだん陽が傾き始め、雰囲気がなんとなく帰宅をにおわせる。帰りたくないな。そんなことは絶対に言わないけれど。唐突にミナトがこちらに向き直り少し真剣な顔つきでわたしを見つめた。

「はい、これ」

言ったミナトの手のひらには初めて見る形のクナイが握られていた。それは先が三本に分かれていて、まるで鳥の足のようだと思った。そしてそれがなぜ、こちらに差し出されているのか。

「え。え?」

「一つなまえにあげる。御守り」

「御守り?」

「ん!肌身離さず持っていて。戦闘で使っちゃ駄目だよ」

御守り、それをわたしにくれるということが素直に嬉しかった。差し出されたそのクナイを受け取り、わたしはミナトにお礼を言った。

「うん、わかった。ありがとう」

「ん、どういたしまして」

少しの沈黙。ミナトはまだなにか言いたそうにみえて、わたしは少しだけ首をかしげ言葉を待った。

「あのさ、なまえ、」

「なに?」

「んー、なんでもない。…またね!」

「?うん、また今度」

(それからミナトとは一度も会っていない)



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