この中忍試験、結果から言ってしまえ
ばわたしたちは合格であった。一次の筆記では忍は裏の裏を読むべし、と学び、二次の巻物争奪戦では作戦会議の重要さとチームワークの大切さを学び、最終の三次ではそれらをすべて生かすための個々の技量の大切さを学んだ。それをしっかり理解できたわたしたちは今日から晴れて中忍だ。

「全く、お前らの出来の良さにはワシも鼻高々だ。さすがワシが修業をつけただけあるのォ」

思いのほか喜んでくれた自来也先生は珍しくわたしたちを焼肉屋へと連れてきてくれた。自来也先生が自画自賛しているのをしり目にわたしは先ほど支給されたベストを見つめた。前々から思っていたが、このベストやはりださい。しかし幸いにもこのベストの着用は強制ではないので、ほとんど腕を通すことはなさそうだ。

それに引き替え、目の前にいる男たちはなんの躊躇もなくベストを着用していた。けれども、ミナトにいたってはその持ち前の容姿のよさのおかげからか全然ださいと思えなかった。こんなこと思っていたなんてチヒロにバレたらおこられるので言えないけど…(もちろん自来也先生にも)

「ん?なまえ、どうかした?」

わたしのベストとベスト姿のミナトと交互ににらめっこしていると、それに気がついた彼は不思議そうにわたしの顔を覗きこんできた。それには相当驚いたけれども、なるべくポーカーフェイスを気取って返事をした。

「ううん、なんでもない」

まさかこのベストださいよね、などとは言えるはずもなく無難に返した。するとミナトは首を傾げながらなおも不思議そうにわたしを見た。

「…少し出ようか!」

「え?」

少し強引にわたしの手を引き席を立つミナトに今度こそ驚きを隠すことができなかった。しかしさすがに自来也先生やチヒロに一言もなしでは心配するのではないかと思い、ふたりに視線を向けてみるが、それぞれ思い思いのことをしていてこちらに気を配っている様子がなかったので、結局そのままミナトについてゆくことにした。

「ミナトの方こそどうしたの?」

焼肉屋を出て繁華街を歩いているいまでもわたしとミナトの手はつながったままで、なんとなくいつしかの夏祭りを思い出す。わたし自身、このつながった手を離したいという気持ちが微塵もないので、ミナトが離さない限りそのままでいるつもりだ。

「んー、少し二人きりで話したいから」

ミナトはほんの少しだけわたしの手をぎゅっとするとこんなことを言った。最近のミナトには驚かされてばかりのわたしである。現にいまだってどんな反応を返してよいものか迷っている。そんな風にものを言われたら期待しちゃうよ。

「み、ミナトって誰にでもそんな感じなの?」

「まさか!」

信じられないというような表情でミナトは言った。むしろ信じられないのはこちらだというのに。違うというのならミナトもわたしを?というか、もしかして彼は天然たらし?考えてどれも違うような気がして首を横に振る。それか、ミナトは最初からわたしのことただの幼なじみとしかみてないから平気とか?…それはちょっと落ち込む。

「それより」

「なに?」

ミナトが上手い具合に話題を変えてくれて正直わたしも助かった。けれども、手は依然として握られたままで。このままではどうにも居心地がわるい。緊張的な意味で。もしわたしが、ミナトのことを幼なじみだとか仲間とだけおもっていたのならこんなこともなかったのだろう。でもいまとなっては色恋の想っているなのだ。緊張しないはずもない。

「今日から俺たち中忍なんだね」

「うん」

「俺、二つ夢があるんだ」

「?、うん」

「一つはずっと前、アカデミーの頃にも言ったことがあると思うけど、強い忍になって火影になるということ。もう一つは…」

ミナトがなにを言いたいのかいまいち理解することのできなかったわたしはただうなずくしかない。そんな自分が少し情けなくおもった。

「もう一つは、まだ言えないけど、でもいつか言える時がくるまで頑張るから」

目線を下に落として言うミナトを見てわたしは、これがこれからの抱負なのだとなんとなく察した。ミナトがこんな風にいろいろ伝えてくれることが嬉しい。

「うん。わたしも守られるだけじゃなくて、守れるように頑張る!」

つないでいた手は握手に変わり、わたしとミナトは見つめあって微笑んだ。

(ミナトの言葉の本当の意味を知るのはまだまだ先のこと)



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